魔法無いの?
ミシュとお兄さん……マツバさんとの追いかけっこはそのままに、僕は馬鹿兄貴を呼んで改めて姉妹との会話を始めた。
「あの程度のドラゴンでしたら、うちのモミジで十分でしょう」
「確かにゲート近くで退治したと言う報告もあったな」
「はい。初めて見たので斬って捨てました」
難しい話は馬鹿兄貴に丸投げで良い。
僕には愛しいお嫁さんの寝顔を眺めて癒されると言う重要な仕事があるのだ。
「あっ……いつだったかノイエが『ドラゴンの数が減った』とか不満を言ってたな」
「そんな報告、受けてないぞ?」
「夫婦のちょっとした語らいで出た言葉だったので。でも一応ルッテに見るようにってミシュに伝えたよ?」
「……ドラゴンの総数なんてわたしには分からないんで、『見ても減ったか増えたか判断できません』とミシュ先輩に伝えました」
「…………その返事は僕の元に届いて無いね」
代表して馬鹿兄貴が石を掴んで、逃げる小さな馬鹿者に向かって抗議の気持ちを投げつけた。
飛んで来た石を回避した馬鹿は、迫り来る変態……マツバさんの手から必死に逃れまた逃走を再開する。
ってあの2人凄いな。ずっと走ってるよ。
「まあそれ以降ノイエが何も言わなかったから一過性のことだと思って忘れてた」
「たぶんわたしがあっちこっち探索……彷徨っていた時に斬って捨てたモノだと思います」
だから何かある度にお尻を抓るのは止めてあげて。変な脂汗が出てるよ?
「なら本当にドラゴン退治が出来るのだな?」
「はい。あんな大きな蛇……ドラゴンの名を語るに落ちた存在です」
うんうんと頷いた兄貴がポンと膝を打った。
「なら早速ドラゴン退治を頼みたい。ルッテ。現状どうなっている?」
パンを齧っていたルッテは、慌てて口の中の物を飲み込んだ。
「……ん~。やっぱり処理場に集まっています。
それと東側に……もしかしたら蛇型では無いのが居るかもしれません」
「ちっ。厄介な」
「蛇型と違う? あのウネウネとしたのでは無いのが現れたのですか?」
「はい。たぶん陸上型ですね。二足歩行するドラゴンです」
「なるほど。ならそっちは私が出向きましょう」
言ってカエデさんがカタナを掴んだ。
「出来るのですか?」
「はい。……まさか妹より劣る姉が居ると思いますか? 私はこの子が束になって来ても勝てます」
断言するカエデさんにモミジさんがしょんぼりとした。
きっと姉妹間で色々あるんだろうな。
「なら案内をお願いします。ハーフレン様」
「はい。では」
紳士らしく振る舞う馬鹿兄貴が見れる貴重な場面だな。
ただその振る舞いが堂に行ってるのは、腐っても近衛団長か。来年からは王弟様だしな。
先に遠い狩場へ案内する為、馬鹿王子とカエデさんが歩いて行った。
邪魔者が居ない隙に妹さんに質問してみるかな。
「モミジさんや」
「はい?」
「お姉さんって厳しい人なの?」
「いいえ」
「はい?」
あんなにお尻を抓ってて優しいと言うの? もしかしてモミジさんって痛いことに喜びを得る人ですか?
変態。スパルタ。変態とか凄い兄妹だな。
「2人の時は凄く優しいんですよ。いつも一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たりしてます」
「ああ。人の目があると厳しくなる感じ?」
「はい。姉様は村長を継ぐことが決まっているので、特に他人の目がある場所では厳しくて」
「……あっちのお兄さんが継がないの?」
「…………父様と兄様は大変仲が悪くて」
「納得」
きっと父と子で譲れない何かがあるのだろ。
僕もパパンのお尻至上主義は受け入れられないしね。最近の僕は腰のくびれに感じる物があります。
「それと話は変わるんだけど……君の一族ってあのドラゴンぐらいなら簡単に退治できるの?」
「はい? あのウネウネとしているぐらいのでしたら、村の住人なら簡単に退治できると思います」
「……君の村って人口何人ぐらい?」
「200人くらいかと」
世界が広いのか、それとも僕の何かが狂っているのか……帝国の皆さ~ん。大陸の西にはドラゴンスレイヤーが村単位で居るそうですよ!
「本当に世界って広いわ、な」
「っていい加減助けろ!」
全力で馬鹿がこっちに向かって走って来たので、僕は咄嗟に右腕を突き出して左手を走らせる。シャボン玉が2つ生じてフワフワと飛んで行く。
頭から突っ込んだミシュが地面に頭を突っ込み、次いで股間から突っ込んだマツバさんが地面に股間から倒れ込んだ。
うむ。またつまらぬ者を成敗してしまった。
「今のは?」
「ただの魔法ですよ」
うむ。格好よく決まったぜ!
ただミシュの足止めの為に1つ出すはずが、2連射になったのは単純ミスなので僕だけの秘密だ。実際そんなに魔力が無い子だから連発とか辛いのよね。
「凄いですね。これが魔法ですか」
「……君の所って魔法無いの?」
「はい。ありません」
「逆にそっちの方が驚きだな」
これは意外と色んな話が聞けて楽しいかも。アイルローゼ先生とか好きそうだな。
「僕の知り合いがここに居たら根掘り葉掘り聞かれただろうね」
「ええそうね。だから聞きたいわ」
ムクッと起きたノイエにモミジさんが反射的にカタナに手を伸ばした。
だが包帯に包まれた右手をノイエが振ると、見えない力がカタナを弾き飛ばす。
「慌てないの子猫風情が……私が本気になったら消し去るわよ」
本気モードの先生が僕の腕の中に現れて、めっちゃ怖いんですけど!
(c) 甲斐八雲
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