うん。信用してる

「うっし……今日も仕事を頑張りますか!」


 気合一発元気に声を出す。さっきノイエとたっぷりキスしたからやる気満タンなのだよ!

 椅子に腰かけ『さあやるぞ』と机の上の書類の山に視線を向けたら、山越しに白いエプロンが見えた。


「お早う御座いますアルグスタ様」

「おおう……何処から湧いて来るの?」

「湧くなど人に出来るはず御座いません。ただ気配を消してアルグスタ様の後ろを一緒に歩いて来たのです」


 それはそれで無茶苦茶なことを言ってますよ、メイド長?


「って僕の独り言とか聞いてたり?」


 浮かれて変なことを口走っていた気もするのだが。


「はい。『今夜はノイエと~』以下略や『透け透け以外の服って~』以下略などはっきりと聞かせていただきました。

 今夜は頑張る方はお好きになさると良いと思いますが、透け透け以外の服をご所望でしたらこのメイド長が、伝手の限りを尽くして大陸中の変態たち御用達の一品を集めて御覧入れましょう」


 ふんわりと一礼し、メイド長がとても冷ややかな視線を向けて来ました。

 おおう……朝からやる気満々だった僕の心がもうダウン寸前だよ。


「あれです。夫婦円満の秘訣って『新鮮さ』だと思うんだ」

「ええ。世の男性はそう言って女性に恥ずかしい服を着せて精神的に辱めて楽しむのですよね。可愛い甥のアルグスタがこんなにも汚れた考えを持ってしまったのは、あの種馬国王めの入れ知恵でしょう」


 メイド長から叔母さんモードに移行したスィークさんが勘違いを始めている。

 コスプレは……ってあの透け透けキャミソールって結局誰が準備した物なんだ? もしかして本当に種馬……前国王様が準備してくれた物なら後でお礼を言いに行かないとな。


「あの種馬め……王妃様に毛皮の衣装を送りワンワン遊びをしていた罰として、しばらく立たなくなるほど加えた痛みをもう忘れてしまったらしいわね。今度こそねじ切るか」

「……」


 ワンワン遊びって何だろう?

 ただ何となく想像は出来る。でもノイエはニャンニャン系だな。うん。白猫のコスプレとかさせたい。

 やはりスィークさんにねじ切られる前に種馬王……お父様にお会いして色々と詳しい話を聞かなければ。


「で、スィークさんは何しに来たの?」

「あっわたくしとしたことがつい」


 ハッと現実に戻り彼女がメイド長に戻る。


「アルグスタ様がとても楽しいことを企画していると聞き、一枚噛もうかと思いまして」

「……何故話が広がっている? 喋っている人間は誰だ?」

「はい。シュニット様経由でお聞きしました。

『アルグスタとハーフレンの2人に任せると後始末が大変だから』と言うことで」


 良く分かっていらっしゃる。流石お兄様だ。


「本当は王妃様も参加なされたがっていましたが、『10歩進んだらお屋敷から出ることを許しましょう』と告げたら3歩目で吐血して現在はベッドの住人でございます」

「メイド長って王妃様を護る為に王都に居るんだよね? たまにサクッと殺そうとしていない?」


 僕の言葉に彼女が大いに驚く。


「滅相も御座いません。わたくしは本当に王妃様の身を案じ、毎日毎日身を粉にしてあの方のお世話をさせて貰っています。

 先日も一緒にお風呂に入ると『スィークも齢には勝てませんね』とかわたくしの体を見て舐めたことを言って来たので、頭の中でプチッと何かが切れましたが。

 そもそも私より少し若いぐらいのはずなのに……肌が水を弾くとかあり得ないのです」


 歳の差暗黒面に突入したメイド長はそっとしておこう。

 この手の話は相槌でも打とうものなら殺されかねない。出来るだけ関わらず終わるのを待つ。


 こそっと仕事を始めて、メイド長の怒りが収まるのを待った。




「……失礼しましたアルグスタ様。つい愚痴など」


 愚痴と言うにはかなりアウトな物が含まれていたけどまあ良いか。


「メイド長もたまに休んだ方が良いと思うよ。うん」

「……そうですね。仕事が落ち着いたら休みでも取りましょう」


 素直にそんな返事をされるとこっちが驚くよ。


「それでアルグスタ様」

「はい?」

「段取りはどの様に?」

「実はまだ白紙です」

「……」


 ああ。メイド長の冷ややかな視線にゾクゾクするものが。

 アカンです。僕はノーマルな男です。


「何か良い企画とかあったりしますか?」

「はい。このメイド長……ご主人様を楽しませるのも仕事の1つに御座いますれば」

「ならお願いしても良いかな?」

「ええ。ですが……」


 ちょっと不思議そうな様子でメイド長がこっちを見て来る。


「丸投げしてしまうとアルグスタ様は何を楽しむのでしょうか?」

「ん? 楽しむって……あたふたしている2人を見て楽しみます」

「……」


 はっきりと分かるほどメイド長が驚いている。

 そんな変なことを言った自覚は微塵も無いけど。


「メイド長。ここだけの話ってことで良い?」

「はい。わたくしの口の堅さは王国一に御座います」

「うん。信用してる」

「……」


 何故かメイド長が顔を赤らめた。

『うっそピョ~ン』封じは完璧すぎたか?


「……僕から見てあの2人って部下の前に可愛い弟と妹って感じなんだ。だからまあなんだ」


 あれ何故か僕も顔が熱くなって来た。

 大丈夫。メイド長にフラグが立ったとかじゃ無いから。


「オモチャにして遊びたいじゃん。出来たら徹底的にね」

「良い話が台無しに御座いますねアルグスタ様」

「そう? でも大切なオモチャだからね……」


 彼女の顔をジッと見る。


「手は抜かないよ。僕の『逆鱗』がノイエだけだと思ってたら大間違いだ」




(c) 甲斐八雲

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