もっともっとです~
「さあ仕返しの時だ!」
「来たなこの糞弟が!」
「何とでも言え馬鹿兄貴! 嫁さんにあんな半乳晒すようなドレスを着させる野郎の癖に!」
「あれはだな……採寸ミスでだな……」
「言い訳が苦しいぞこの糞が!」
「何だとてめえ! 顔面血の色に染めてやろうか!」
「あん? 嫁呼ぶぞコラ~っ!」
結婚式も無事に終えて家族一同そろい踏みと言うことで、お城の一室に集まる。
『わたしは家族じゃないんで……』と言って全力で逃げ出したルッテはまあ仕方ない。参列していたクレアとイネル君を誘ってご飯でも食べて来てと小銭を握らせておいた。少し多めにしたのは出入り口で拾って貰えず放置されていたミシュの回収も頼んだからだ。
きっとやけ酒に付き合わされるな……頑張れルッテ。そうやって人は社会の常識を学んで行くんだ。たぶん。
現在この一室に居るのは長男夫妻と馬鹿王子と僕の4人だけ。国王様は挨拶してから来るとかで、馬鹿王子のお嫁さんはお着換え中だ。
そして絶賛言い争う僕らの間にチビ姫が飛び込んで来た。
「喧嘩はダメです~」
ビシッと両手を広げて仲裁して来た。
だが残念ながらそれで止まるほど僕らの溝は浅くない。
「そもそもあの胸、下の方に何か詰めて盛ってたでしょ? 大きいのにかさ増しするその見栄っ張りな根性が気に食わん!」
「あれに気付くか? あれはだな……大きい物を大きく見せて何が悪い!」
「開き直ったよ!」
「小さい物を大きく見せようとするのは卑しいと思うが、大きい物を大きくするのは人の常だ。欲だ!」
「そんな欲など下水に放って流してしまえ!」
「あう~。聞いてくれないです~」
挟まれるチビ姫がウルっとし始めた。
「お前だっていつかの舞踏会でノイエの胸を盛っていただろう!」
「はん! この巨乳派は! だからお前らは駄目なんだ!」
「何おう?」
「あれは盛ったんじゃない。全体的な丸さを強調する為の支えだ! 美しさを追求した結果のあれ! ただ大きくするだけならもっとこう……グワッと谷間など作れるわ!」
「谷間無いです~。キャミリーはダメな子ですか? です~」
自分の胸をもにもにしながらチビ姫が嘆く。
君の場合は谷間よりも胸自体がその……乏しい。
と、部屋の扉が開いて国王様が入って来た。
「この馬鹿息子共が。なんて話を大声でしておるかっ!」
「「……」」
「女は胸だけではない。尻を褒めん輩は人の屑だ!」
「「黙れ尻派が!」」
三者三様の論戦は着替えを終えたリチーナさんが来るまで繰り広げられた。
その間に色々とダメージを負ったチビ姫は、『キャミリーも頑張って育つです~』と夫であるイケメンお兄ちゃんに向かいそう宣言していた。
「改めて紹介する。正室のリチーナだ」
隣の馬鹿が立派だからあれだけど、身長はそこそこ。スタイルは一点豪華主義。瞳の碧眼はこの国に多く見られる特徴だけど、髪の色は緑がかった青色だ。顔の作りは美人と言うよりか愛嬌のある可愛いタイプ。少し日焼けした感じが好印象だ。
「……初めまして皆様方。私がこの度ハーフレン様の伴侶となる栄誉を賜りましたリチーナと申します。ご挨拶が遅くなってしまいましたことをこの場にてお詫びしたいと思います。大変申し訳ございませんでした」
一応礼儀作法を習っていただけあってとても綺麗なお辞儀をされた。
これがお嫁さんの正しいスタイルなんだな。
早速リチーナさんの足に抱き付いているチビ姫は来年から王妃で、うちのお嫁さんなんて今頃ドラゴンを殴り殺している。
あら不思議? 一番まともに見えるお嫁さんが馬鹿兄貴のお相手でした。
「初めましてリチーナ。私が兄のシュニットだ。これからは家族として何かあれば気軽に声を掛けて欲しい」
「はい」
顔を強張らせてリチーナさんが頷く。
次期国王様に対して気軽に声を掛けるとか普通無理っしょ?
「それと今抱き付いているのが私の正室、キャミリーだ」
「キャミリーです~」
「……扱いに困ったら構わず言って欲しい」
「…………分かりました」
小さな手を伸ばし、ふにふにと豊かな物を揉み出しているチビ姫は本当に自由人だ。
と、次は僕の番なのでとりあえず部屋の窓を開ける。
リチーナさんが不思議そうにこっちを見るけど気にしない。
「初めまして。扱いがその時に応じて色々と変わって困るんですが、元第三王子で現ドラグナイト家当主のアルグスタです」
「初めましてアルグスタ様」
彼女が綺麗なお辞儀をして来る隙にそっと囁く。
と、背後で風が発した。
こちらを見ている国王様が渋い表情を見せ、お兄ちゃんも苦笑。馬鹿兄貴は呆れ顔だ。
「ちょっと色合いが赤黒くなってるけど仕事中なんで申し訳ない。うちのお嫁さんのノイエです」
「……初めまして」
「あっはい……ええっ? えええっ!」
流石に思考が耐えきれなくなってリチーナさんの何かが壊れた。
そりゃ突然窓枠に足と手で体を固定する全身返り血まみれの美女が現れたらパニックだよな。
「ノイエおね~ちゃ~んです~」
唯一マイペースなチビ姫だけが、ノイエに向かい突進しようとするので丁重に脇に抱えて黙らせる。
「普段は郊外でドラゴン退治をしているので仕事中に会うことは無いと思いますけど、何かあったら僕に言ってください」
「はぁ」
心ここにあらずと言った様子で彼女はただ頷く。
「おね~ちゃん。今日は何匹です~?」
「……27」
「もっともっとです~」
「頑張る」
余計な一言でノイエのやる気に火が灯ってしまった。
『戻って良い?』と目で訴えて来るので、小さく頷くとノイエの姿が消えた。
「ちなみにこんな風にノイエ呼ぶと各部署から物凄く怒られるので……お祝いの席の余興だと思っていただけると幸いかな?」
「無理だと分かって言ってるよな?」
「嫌だなおにーさま~。結構本気だよ?」
だけど結局許される訳もなく、僕は確りと叱られる訳です。
家族一同って言ったじゃんか……失礼な話だ。
(c) 甲斐八雲
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