ポヨンポヨンです~

「昨日以上に胸への視線が……」


 男性貴族の視線が少なからずルッテの胸に向けられている。

 女性には有名税では無くて巨乳税と呼ばれる物があるのかもしれない。

 胸の大きな人には迷惑な話だけどね。


「そもそもあんなに食べるのが悪いかと」

「だって……」


 お腹周りのコルセットをきつくした結果、本日のルッテは昨日よりもボリュームが増したように見える。コルセットでお腹の肉が上へと押し上げら、昨日以上の谷間を作っているのだ。

 それだけ立派な物を持ってしまった自分を恨みなさい。


 立て続けで行われることが決定していた即位式からの結婚式。

 2日目の今日は、馬鹿王子の結婚式だ。


 僕の時とは違い国を挙げてのお祝いにする必要もないので、主だった関係者と貴族、各国大使が参加する……僕の1回目の結婚式と同じだ。

 あの時はノイエが王家に嫁ぐと言うパフォーマンス的な色合いが強かったから仕方ない。


 お蔭で公衆の面前で何度口づけをさせられたことか。

 あはは……もう見られている程度じゃ僕の感情は揺るがないよ?


「あれだね」

「はい?」

「あの馬鹿兄貴には公衆の面前でエッチして貰うくらいのことをやって欲しいな」

「……」


 顔を真っ赤にさせてルッテが沈黙した。

 三男の僕がキスしまくったんだから、次男の彼にはそれくらいして欲しい訳です。


 と、何か小さな存在が突き進んで来る。


「アルグスタおに~ちゃんです~」

「……チビ姫は元気だね」

「は~いです~」


 お祝いの席と言うか、真面目過ぎなくて良い席だからか、キャミリーが遠慮なく抱き付いて来る。

 昨日は終始黙って椅子に座り式が終わるまで大人しくしていたあの様子が嘘のようだ。

 ウリウリと頭を撫でていると、疲れた様子の次期国王様が来た。


「済まんなアルグスタ。昨日黙っていた反動か朝からこんな様子でな」

「昨日頑張ってたから仕方ないよね」

「は~いです~」


 甘えて来るチビ姫は、僕の隣に座る新しい獲物を見つけた。


「胸の大きなおね~ちゃんです~」

「それなんですか? わたしの扱いって……」


 ちょくちょくうちの執務室に顔を出すキャミリーは、ノイエ小隊の面々と仲が良い。

 フレアさんは先生。ミシュはちっさな人。ルッテは大きな人。など自分の基準で愛称を付けている。

 ミシュとルッテの大小は……まあそう言うことだ。


 僕からルッテへと抱き付く相手を変えたキャミリーは、豊かな双丘に顔を埋めて何かを堪能している。

 こちらを見ている男性貴族たちが中腰で前かがみになったのは……そう言うことだろう。


「ポヨンポヨンです~」

「はいはい。そろそろ始まるからね」

「は~いです~」


 チビ姫をお兄ちゃんに預け、ドレスを正すルッテを見て思う。

 腐ってもチビ姫は来年から王妃様だ。逆らうことなんて出来ないよな。


 仕方なくルッテを連れ出して一度外へ……控室に向かってメイドさんたちにドレスを直して貰う。


「他人の結婚式でもやっぱり疲れるわ~」




 厳かな感じで式が始まった。

 自分の時は主役的な扱いだったから周りの様子に目など向けてる余裕が無かった……と言うより、この世界に来て数日で結婚した訳だ。今思うと物凄い話だよな。


「どうしたアルグスタ?」

「いえ……自分の時のことを思い出しまして」

「そうか」


 隣に座るお兄ちゃんが薄く笑う。


「落ち着いて考えると色々と無茶苦茶だったなと」

「確かにな」


 笑みが苦笑に変わった。

 でもノイエと結婚出来たのはとても幸運だった訳です。

 うん。そうだ。この世界に来て良かった。


『ありがとうノイエ。大好きだよ』


 周りに聞こえない程度の声量で囁く。

 遠くで何かすっごい爆音がしたような気がするけど気のせいだ。きっと結婚式の祝砲だろう。


 スススススと音を立てずにメイドさんが歩み寄って来た。

 長身の馬鹿王子の専属メイドさんだ。


「アルグスタ様」

「何でしょう?」

「白いドレスを身に纏った小さな女性が参列している年頃の男性に求婚を迫り少々騒ぎとなっています」

「後ろの方で聞こえるざわざわした声はそれか」

「はい」


 きっと式の進行に飽きた人たちが会話でもしているのだと思ったんだけど。

 何より『あれ』の保護者扱いされている僕が可哀想じゃない?


「どのように対処すれば宜しいでしょうか?」

「簀巻きにして出入り口に『ご自由にお持ちください』と貼り紙付けて置いといて」

「……宜しいのでしょうか?」


 ちょこっと問題あるかな?


「ただし『持ち帰る場合は結婚を意味するものとする。アルグスタより』と注意書きも入れておけばいいよ」

「分かりました」


 また、スススススと音を立てずに彼女は離れて行く。

 分かっちゃうんだ……凄いなあのメイドさん。


 と、隣でお兄ちゃんがクスクスと笑っていた。


「お前の周りはいつも騒がしく楽しげだな」

「ですね。僕的には平穏無事が1番なんですけど」

「中々に難しいな」


 本当に難しいんですよ。

 結構色々と問題を抱えているしね。


 壇上では誰だかよく知らないお爺ちゃんの有難いお言葉が終わり……次いで国王様が出て来る。

 分かっているさ。また長々と良く分からない話を聞かされるんだろ?

 これだったら見世物でも良いから主役している方が楽で良かったかもな。

 少なくとも呼ばれるまでは控室で待機してれば良いんだし。




(c) 甲斐八雲

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