魔王とか言ったらキレるよ?

 話はカンダルニの箱が開いた場面まで戻る。



 電話帳でも入るサイズだとは思ったけど……。

 ノイエの中の誰かが出て来て不思議な箱が開かれた。

 たぶんパズルの類を見たら解かないと気が済まないタイプの人でも居るんだろう。そう思っておこう。


 で、中に入っていたのは一冊の本だ。

 とても丁寧な作りの高そうな本が一冊のみ。


 本を持ち上げると何故か風に吹かれて消える煙のように箱が消えた。

 異世界の道具だから別に驚かない。大丈夫。軽くちびっただけ。だからセーフだ。

 一度ベッドの上に本を置いて……お手洗いにダッシュして帰還した。もう平気。下着も替えたしね。


「ただの本だよね?」


 ツンツンと突いてみるが反応は無い。ノイエの太ももも突いてみたけど起きる気配はない。

 ならばガバッと行きますか。ノイエに対してじゃ無くて……本の方だから。

 表紙を捲ると、本では無さそうかな? あれだ。無駄に高価な日記帳にも見える。


 日記?


「つまりこれにはグローディアの嬉し恥ずかしな赤裸々な何かがっ」


 不意打ちで蹴られてベッドの上を転がる。

 物凄く冷ややかで氷のような碧い目をした金髪のノイエが僕を睨んでいた。


「軽い冗談です。はいっ」


 本人が出て来るとか計算して無いしっ!


 全身冷や汗をかきながら土下座すること暫し……相手の反応が無いからこっそり顔を上げると、いつも通り顔色一つ変えずにノイエが寝てた。

 脅しかよ。いやただのツッコミか。ツッコミが怖すぎるんですけど?


 改めて座り直して本を手に取る。

 表紙から捲って行くとそこには……。


「術式の図面かな? ああ。グローディアが作った魔法関係の物を書いた本なのかな?」


 どのページも事細かに綺麗な文字で書かれている。

 難し過ぎると言うか僕に知識が無いから全く分からない。

 でもこれはたぶんとても貴重な研究資料に相当するんだろうな。


 何で僕に渡すかな~。


 ため息交じりにページをピラピラ捲ると、魔法と術式のエリアを抜けた。


「召喚……」


 自然と手が止まった。

 彼女が考えたのであろう術式の後に続くのは、召喚術式の考査だった。

 たぶんこの国で使われているのであろう召喚術式を自分なりに解読したものが書かれている。


 全部は理解出来ないから分かる部分だけ目で追って……また手が止まる。


『私は歴史に名を残す馬鹿者である。何故あんなモノを……。

 懺悔し処刑台に登り首を斬られるだけで許されるのであれば、きっとこの世には優しい神が居るに違いない。

 これほどの罪を……誰が許せるだろうか?

 全ての始まりは私が原因だ。巻き込まれた者たちに何と言って謝れば良いのか?』


 言葉が綴られた最後のページに書かれていたのがそれだ。

 そして残りの紙には黒い染みが存在している。

 触ると黒い粉が指に着いた。炭じゃなさそうだ。たぶん。


「なんだかな~」


 ゴロンと後ろに倒れ込んで大の字になる。


 グローディアは召喚術式を使用したんだ。そして何かを呼んだ。

 呼ばれた何かはきっと悪いことをして……ふと思考を止める。

 それだと『巻き込まれた者たち』の意味が繋がらない。


 いや考えるまでもない。たぶん巻き込まれた人たちは、その多くがノイエの中に居るんだ。

 十年前の事件は軽く調べて把握している。

 ドラゴンの襲来による集団ヒステリー的な感じで処理されてはいるが。


 確かレニーラが言ってた。『何かに見られた』と。そして彼女たちは事件を起こしたんだ。

 グローディアが呼んだ何かが子供たちを見て事件を起こした。そんな所だ。

 確かに謝って許されることじゃない。色々な人の人生を狂わせたのだから。


 起きて本をベッド横のサイドボードに隠す。


 は~。気持ちが重いな。

 一応明日共和国の魔女に適当に良い感じで質問でもしてみるかな。

 ただ……どう説明したら良いのか自分でも良く分からないから困る。

 その場の流れに任せて、どうにでもなれ。


「良し。寝よう。何より癒しが必要だ」


 ノイエの横に寝っ転がって彼女を抱きしめる。


「…………する?」

「しません」

「……」


 また目を閉じたノイエはお休みなさいモードだ。

 結構ガッツリと寝る傾向にあるノイエの正しい反応だ。

 やっぱり術式とか祝福とかで疲れているのかもな。


 もう一度抱きしめて額にキスをして僕も目を閉じる。


「お休みノイエ」

「……はい」


 小さな声と控えめなキスが頬に触れた。




 そして話は馬車での会話に戻る。



「……やっぱりあの化け物を退治しないと僕的にはぐっすり寝れない訳だ。ほら女性の苦悶する表情が好きなんでしょ? グサッとサクッと宜しく!」

「無理ですね。何よりそんな大女が苦しそうにしていても私の琴線に触れるとは思いませんし」

「顔の形は意外と整ってたよ。ってノイエ。痛いから……そんなにきつく腕を抱きしめないでっ!」


 少し怒った様子でノイエのアホ毛が揺れている。

 他の女性を褒めちゃダメなのかな?


「だからあれを倒せる武器とかを召喚して倒す方向で……無理?」

「無理ですね。仮に呼び出せても使用方法が分かるとは限りません。たぶん強力な兵器であろう物体を、見よう見まねで操作する所をアルグスタ様は見たいですか?」


 核ミサイルを適当にぶん投げて攻撃する感じ?


「うん。無理」

「ですから道具で無くて生物、多くは人の姿をした者たちを呼ぶのです」

「納得」


 脱線しつつも拾いたいキーワードは集まった。

 つまりグローディアは生物である何かを呼び出したってことになる。

 ……魔王とか言ったらキレるよ? 従姉さんよ?




(c) 甲斐八雲

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