首切りレニーラ
「名前……聞いても良い?」
「私? 何々……口説きたくなっちゃった? あははダメだよ~。こう見えてても私、身持ちの硬い方なんだから」
「僕にはノイエって言うお嫁さんが居るから平気です」
「あはは。こんな美女をあっさりと振るなんて酷い男だね~」
クスクスと笑い彼女が視線を向けて来る。
「私はレニーラ。『首切りレニーラ』で調べれば分かるはずよ」
「知ってる。確か舞踏の天才で、剣を持って……」
「うん。人の首をスパパパパっとね」
分かっている。ノイエの中に居る人たちは誰もが有名な犯罪者だ。
彼女もその中の一人だと理解しているが……話をしている限り何て言うか、『怖い』って感じはしない。
本当に話しやすい近所のお姉さんみたいな感じだ。
「ねえレニーラ」
「なに?」
「どうしてその……」
「犯罪を犯したのか?」
「うん」
彼女は何も言わず僕の胸に顔を押し付けた。
グリグリと額が当たってちょっと痛いけど我慢。
「……分からないの」
「えっ?」
「私たちは普通に暮らしていた。本当に普通にね。でもある日……とても冷たい視線を感じた。それからの記憶が無くなって、気づいたら死体の山の中に立っていたの。
他の人に聞いても多かれ少なかれ同じような答え。だから他の人には聞かないであげて……自分の命と同じくらい大切な人を殺したりしている人も居るから」
「分かった。約束するよ」
「あはは。本当に旦那君は優しい人だな」
泣いていた訳では無いのだろうが、こちらを見た表情は泣き顔にも見えた。
「それと出来たらノイエの封印は出来るだけ外さないでね」
「どうして?」
「どうなるか分からないから」
「……」
何故か彼女の視線が泳いだ。何か隠している。
「本当に知らないの。ただ……たぶんの話だよ? きっとこの国くらいは亡ぼせると思う」
「どうしてそんな状態になるのかな~」
「あはは。ごめんね~。それだけ皆がノイエを大切にしてたから……かな」
「なら仕方ないね」
無理難題が増えてばっかりだけどね。
「こんなノイエは嫌い?」
「嫌いになれたら楽なのかもね。でも大好きで大好きでたまらないほど愛してるから嫌いになるのは難しいかな」
「本当にこの子は危ないよ。その……色々と」
「だね。でもノイエをお嫁さんにして、幸せにするし幸せになるって決めたからね」
「そっか」
レニーラはその顔に咲き誇る花の様な美しい笑みを浮かべる。
あ~ダメだ。何と言う破壊力でしょう。これは独占しなければいけない物だ。
「ちょっと旦那君。きついよ」
「ごめん」
「……ノイエは笑わないから?」
「うん」
「……でも嬉しいって気持ちはあるんだよ。今日は寂しい気持ちを抱えてたけど」
「寂しい?」
きつく抱き締めた腕を緩めて相手の顔を覗く。
「旦那君が他の女性と踊っている姿を見るのはノイエだって辛いんだよ」
「そっか……」
「そう。だから反省だよ」
「はい」
言われればノイエはずっと僕を見て不機嫌そうだった。
『一緒に踊ろう』と声を掛けるのが正解だったんだ。
「さてと……少しは体に染み込んだ?」
「ん?」
「踊りよ」
「ああ……本当に少し?」
こればかりは徹夜ぐらいでどうにかなる気はしない。
「まあ良いわ。起きたらノイエに習いなさい」
「大丈夫?」
「あはは。ノイエはこの天才レニーラの一番弟子よ」
実はガッツリと踊れた子なのね。ヤバい……知らないノイエがまだ居たよ。
「長話と踊りで時間ばかり過ぎちゃったし……次はいつ出て来れるか分からないしね」
「出来たら定期的に出てくれると嬉しいです」
「あはは。ごめんね~本当に無理なんだ。こればかりは」
クスクスと笑うノイエとか本当に貴重なんだよっ!
「じゃあ最後に……旦那君」
「はい? あっ」
足を掛けられてベッドに押し倒された。
流れるような動作でマウントポジションを取られる。
「今日の講習料をその体で確りと払って貰おうかな~」
「ちょっと待て! 身持ちの硬い話は何処に行った!」
「あはは。それは本来の私でしょ? 今の私は『ノイエ』だし」
「詭弁だっ!」
「あはは。大丈夫。普段ノイエがしてくれないようなことを纏めて全部してあげるから……旦那君は大人しくお姉さんに食べられなさい」
「いや~ん」
文字通りすっごい勢いで食い尽くされた。
ポカポカと胸を打つ感触に目が覚めた。
あれ? 確か……レニーラさんこわっ!
恐怖に目を見開くと、マウントポジションなノイエと目が合った。
「おはようノイエ」
「……」
顔を紅くさせてプルプル震えながら彼女が握った拳で僕の胸を打つ。
全然力は入ってないけど、苦情染みた非難染みた気配が良く伝わって来る。
「ノイエ?」
「寝てる時は……ダメって言った」
「うん」
「どうして?」
ノイエ的には寝てる所を……って感じなんだろうな。
僕的には死にそうになった所を無理やり蘇生させられて搾り尽された感じだけど。
胸を打つ手を捕まえる。別にノイエが悪い訳じゃないけど。
「ノイエがして来たんだよ」
「……」
「寝たいって言ったのに、『踊ってくれなかった』って甘えて来て」
「っ!」
赤い顔が真っ赤になった。本当にノイエは可愛いな。
「離し……」
「ダメ」
捕まえている手を引くと、彼女が前のめりに倒れて来る。
その顔を抱きしめて……耳元で囁く。
「体を綺麗にしたら踊りを教えて」
「……はい」
昨夜レニーラが笑っていたせいか、今朝のノイエはほんの僅か表情を柔らかく変化させた。
笑顔には……まだまだ遠そうだけど。
(c) 甲斐八雲
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