異世界に行く方法その78

「はぃ~、お二人さん準備はええですかぁ~?」



 ダウンジャケットを着こんだ宗麟は缶のホットコーヒーを飲みながら精霊王ツィタニアと魔王アズリタンを見下ろす。今回、三人は『のぞき坂』にやってきた。坂の頂上で待つ宗麟と、坂の下から見上げる二人。今回は宗麟が夜にたまたま見たテレビ番組で女の子がただ坂を全力で走るだけというかなりマニア向けの番組を閲覧して気づいた。

 全力を出す事で魔法が使えるのではないか? 魔法が使えれば異世界に行けるのではないか?



「ちょっと待て! どんな理屈だ!」



 という魔王アズリタンの質問を無視し、精霊王ツィタニアは全力ダッシュ後のラーメンで買収済み。何一つ文句を言わない。



「何か言え精霊王! はっ……貴様。心ここにあらず……小僧に何か吹き込まれておるな?」

「魔王。いいから走りなさい」



 ウィンドブレーカーを着た暖かそうなツィタニアに対してもアズリタンは物申す。あまりにもおかしい。むしろおかしすぎておかしいと思っている自分がおかしいのかと錯覚してしまう程度に……



「こぞー! せいれいおー! おかしくはないか? 余だけ何故か薄着なのだが」



 大声で叫ぶアズリタンに宗麟は大声で返した。



「魔王サマぁ! ばっちし可愛いからそれでオーケーや!」



 可愛いと言われ頭をかきながら照れる。



「まぁ、当然余は可愛いが……なんだか腑に落ちないが、まぁ良いか」



 体操服にブルマ、そして紅白ハチマキを使った髪型。ツィタニアも一瞬見惚れてしまう美少女が出来上がったものだから、とりあえずそれでという事で宗麟はスターターピストルを掲げた。



「ほな、位置についてぇ! よーい!」



 パン!

 ピストルと共にアズリタンは両手を勢いよく振って走る。



「くはははは! 精霊王よ! 魔界に余ありと言われたこの魔速。とくと見るがよい」



 はぁはぁと息を切らせながら満面の笑顔で坂を上り切ったアズリタンは汗を拭きながら坂を見下ろす。



「ぜぇぜぇ……くはははは! 精霊王のどん速めが、まったく見えんわ! そもそも余と奴が戦うなんどという事がステージが違いすぎたのだ! ハァハァ、疲れたぁ」



 爆笑するアズリタンの横で、ラーメンの丼を抱えながらずるずるとそれをすする精霊王ツィタニア。



「魔王。貴女、足遅すぎでしょう。二杯目のラーメンを食べ始めてしまいましたよ。というか、私達の世界では無類の強さを誇った貴女ですが、魔法使えない今。軽く捻れてしまいそうですよ」



 方やアズリタンは肩で息をし、今だ体力が回復しない。



「魔王サマ、魔法使えそうか?」

「……ムリ……」



 全力で走ると魔法どころではなくなる。後にアズリタンの写真を宗麟はネット販売し、一儲けしたがまたそれは別のお話。

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