異世界に行く方法その72

「のぉ、こぞぉー何故生卵につけて煮た肉を喰らうのだ? しかし、脳みそがトロけるくらい美味いの」



 魔王がそう言ってすき焼きを食べるのでカンカンと音を立てて卵を割るツィタニア。そしてすき焼き鍋の中から牛肉を卵に絡めて食べる。



「むっ……これは、魔王ではないですが脳がとろけそうですね」



 スーパーの特売で湯豆腐をしようと三人で食材を買いに行った矢先、購入金額に応じて引ける福引でまさかの黒毛和牛が当たった。その時の三人の心は一つになった。豆腐と白菜しかないビニール袋の中身を見て宗麟は叫ぶ。



「魔王サマぁ! すき焼きのタレと白滝!」

「う、うむ!」

「精霊王サマぁ! しいたけと白ネギ」

「りょ、了解です!」

「俺は、高いフルーツジュースを買ってくる」



 三人の見事なチームワークで湯豆腐からすき焼きへとグレードアップしたその食材を持ち帰り部室に至る。



「卵は飼育部から頂いた烏骨鶏の卵やから、ありがたぁーく頂くように、でその生卵を肉に絡めて食べるっちゅー食べ方やねんけどな? 色々説がある。一つはめちゃくちゃ熱い肉を卵で冷やして食べるって事やな……ただし、それにしてクソ上手すぎるやろ?」



 アズリタンとツィタニアうんうんと頷きつつ黒毛和牛をガツガツと食べる。食べる。今まで食べてきた米国産牛肉とは明らかに違うその味に狂ったように肉に喰らい付く。そんな獣のような魔王と精霊王を見ながら宗麟は上品にすき焼きを食べる。



「このすき焼きという食い物はな? 記念日とかなんか縁起もんとして食うねん。なのに我々はとくに何かあるわけでもなくこのすき焼きを喰うてる」



 十個で500円の割高の卵を次々に食べるアズリタンとツィタニアはすき焼きにテンションを上げながら宗麟に尋ねる。



「なんですかぁ? 普通に福引を当てたからすき焼きを食べれてるんじゃないですかぁ!」

「そうだそうだ! 余達は当然食えるから食っておるのだ! 違うか?」



 宗麟はウーロン茶で喉を潤すと静かに話し出した。



「世の中には因果応報という言葉があってな? 特になんもしてない俺らがこんなええもん食って、なんもせーへんわけにはいかんよな?」



 ぼたぼたぼたと宗麟は三つの餅を放り込んだ。そして宗麟は悪い顔をしてから二人に言う。



「この中に一つ、デスソースの入った餅を入れた。正直、食えば死を迎えるレベルの辛さが襲う。ロシアンルーレットすき焼きや! この中の一人、異世界に行けるかもしれへん」



 三人はおのおの餅を自分の取り皿に入れるとせーので食べる。

 魔王アズリタンが……



「美味い!」



 精霊王ツィタニアも。



「美味しいですね」



 悶絶。圧倒的悶絶で苦しむ宗麟。本来異世界に行くべきではないハズの宗麟の意識は飛び、一瞬だけ、精霊達と魔族達が争っている情景を見たとか見なかったとかを語った。

 ちなみに、食べたくない物を強要するのはパワハラである。

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