異世界に行く方法その65

「はい、今日は新宿のニトリに行って買ってきましたぁ~。ビーズクッション。ちなみにこれは別名、人をダメにするクッションと言われております」



 部室に青い柔らかそうなソファークッションが置かれる。それを見てツィタニアとアズリタンはオウムのように宗麟に質問する。



「人をダメにする……ですか?」

「なんぞ? 呪いのアイテムだとでもいうのか? 小僧よ」



 宗麟は小さい子を呼ぶようにアズリタンに手招きしてみせた。それにアズリタンは警戒しながら宗麟に近づく。



「そりゃ!」



 ドンと宗麟に突き飛ばされるアズリタンは怒る。それは当然の反応だった。何故自分が突き飛ばされなければならないのか?



「小僧貴様ぁ……えぇ! なにこれぇ! しゅごい! きもちいいぞぉ! はぅ~ん! 余はこれをベットにすりゅぅ!」



 そう言って怒鳴り中のアズリタンを黙らせるに至ったビーズクッションを見てツィタニアは空いた口が塞がらない。



「魔王封じのアイテムじゃないですか……」



 ツィタニアは手を伸ばす。それがどれほどのものなのかを……宗麟は叫んだ。



「精霊王サマぁ! むやみに触れるな……死ぬぞ」



 ツィタニアは慌てて離れる。宗麟のその言葉に焦り、そしてビーズクッションに頭をうずめて気持ちよさそうにしているアズリタンを見ているとその言葉があながち間違ってなさそうである事もツィタニアを一層信じさせる。



「このままでは魔王が……私の世界的には助かる話なのですが、あまりにも顔がとろけすぎてやしませんか? 幻覚? それとも……」

「では取り上げてみたいと思います!」



 宗麟がそう言って「てい!」とアズリタンからビーズクッションを奪う。それにアズリタンは一瞬何が起きたのか分からないという顔をした後に大きな口を開けて叫ぶ。



「返せっ! それは余の寝所にするのだ!」



小柄な魔王アズリタンは魔法力も全くないので、ただの力ない子供でしかない。それ故、宗麟からビーズクッションを奪い返す事が出来ない。



「ほれ、精霊王サマ! パス」

「えっ? これ触れちゃダメなんじゃ……はぅん!」



 ツィタニアは今までに感じた事のない触感、そしてそれにアズリタンが虜になった意味を理解した。これは……



「もう離れられませぇん!」



 魔王と精霊王を一瞬で昇天させる破壊力を誇るビーズクッション。それを人間はこう呼ぶ。人をダメにするクッションは疑似的にではあるが、異世界トリップ級の破壊力がある事を彼女等の顔を見ながら宗麟は知る。そしてつくづく自分の満ち足りた世界はぬるま湯なのだなと気づいた。

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