異世界に行く方法その64

「はい合宿申請してきましたぁ! という事で鍋でもつつきながら夜更けを待とか?」



 部室にIHヒーターを用意しその上に鍋を乗せるとくつくつと煮立つ鍋の中に豚肉とほうれんそうをいれ、お好みで豆腐やらの鍋の主役たちを投入していく。



「これは美味しそうですねぇ!」

「うむ、獣の肉の風味がまたよいの小僧!」

「はいー、今回のメニューは常世鍋ってやつやの。永遠に食ってたいっていう意味や」



 三人はゴマダレやポン酢で各々好きに鍋を楽しむ。コーラをツィタニアとアズリタンのグラスに注ぐとアズリタンが牙を見せてコーラのペットボトルを手に持った。



「小僧、余は気分がよい。本来このような事はせんが、酌をしてやろう! そのガラスで作られた高価なグラスを向けるがよい」

「これも魔王サマが使ってるのも百均や」

「そうかそうか、この世界を余が手に入れた暁には余の配下たちにその百均とやらのグラスを進呈しようぞ」



 安い買収だなと宗麟は思う。この魔王アズリタンの軍勢がこの世界にやってきたとしてもこの世界ではクソ安い物をやってさらに買収しかえされるだろうなとそんな情景を想う。そしてきっと独りぼっちになるアズリタンも容易に想像できた。



「魔王サマ、配下と友達は大事にな?」

「は? 余が余の配下を大事にしてないだと? 笑わせる。そして余に友等おるわけないであろう? この馬鹿めが」

「おるやろ? 俺に精霊王サマ」



 ツィタニアは否定しそうだったが、ツィタニアより驚いた顔でアズリタンは宗麟とツィタニアを見て食べかけの豆腐をポロりと落とした。



「……馬鹿な。友……だとぅ」



 アズリタンの器にある豆腐を宗麟は箸でつまむとそれをアズリタンの口元に持っていく。そして宗麟はお決まりのあのセリフを言った。



「魔王サマ、はい。あーん」

「ふぉっ! 小僧貴様っ……あ、あーん」



 そんな微笑ましい鍋パーティーをする為に宗麟は合宿申請をしたわけではない。というか鍋パをするから学校に泊まらせてくださいが通じるわけはないのだ。当然部活の検証を行うという事。宗麟はオカルト研究同好会。



「この学校に伝わる。異界の十三階段、本来この校舎の奥階段から屋上に渡る段数は十二階段。そもそも十三階段は縁起が悪いと言われとって作られへんねん。死刑台の数とか、死刑執行の隠語とかな」



 ほうと呟くツィタニアに対して、明らかにびびりまくるアズリタン。それを見て宗麟は言った。



「夜に屋上に続く階段の数を数えると何故か十三階段目が……そしてその時に屋上へと続く扉を開くと……異世界や! という事で魔王サマ行ってみよか! ほれ懐中電灯」

「いやじゃああ! なんぞ余がいかねばならん。だったら小僧が行けばよかろう?」

「なんでやねん。俺が異世界行っても意味ないやろ。まぁええわ。俺が行って十分後に戻らんかったら、精霊王サマきてや」



 宗麟がそう言うのでツィタニアは頷く。



「分かりました」



 宗麟が部室を出た後に十分経っても戻ってこない。それにツィタニアは立ち上がるとアズリタンに言う。



「じゃあ行ってきますね魔王」

「うむ、あの小僧をさっさと連れ戻してくるがいい」



 ツィタニアとそう掛け合ったのが懐かしく思えるアズリタン。常世鍋を独り占めできるとそう思っていたが、なんだか誰もいない部室も怖くなってくる。



「ま、全く余がわざわざ探しに行ってやるなんて事は普段はせんのだからな!」



 そう言ってアズリタンはびびりながら屋上へと続く階段を上る。



「こぞー、精霊王。何処だ?」



 声をかけても声は帰ってこない。それにアズリタンはきょろきょろとあたりを見渡してから叫ぶ。



「こじょおおお! ぜーれーおー、どこー! 余をひとりにするでなぁい」



 泣いても叫んでも二人はおらず、アズリタンは一度部室に戻るとそこで鍋をつついている二人。



「貴様等ハメよったな!」

「は? 魔王サマ便所行く言うてでていったやん! それよりこの常世鍋食ったら、異界の十三階段調べるで」

「いかん! それはいかん」



 瞬時にアズリタンは理解した。自分は異界に迷い込んでいた事。

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