異世界に行く方法その31

 吉野家で牛丼を食べながら、宗麟はツィタニアに聞いた。



「なぁ、精霊王サマは紅ショウガどのくらいいれるん?」



 それを聞かれて精霊王ツィタニアは自分のどんぶりを隠す。それに宗麟はある事に気づきながらも話をつづけた。



「紅ショウガは万能食材と言われとんねん。それ故、万病に効くとかともな……それ故食いすぎると……」

「た、食べ過ぎると?」



 先に断わっておくが、紅ショウガに致死量は存在しないが、身体を温めたり一部興奮作用があるのは確かである。



「……麻薬のようにトリップする事が出来ると言われている。俺の丼の中身見てみぃや!」



 そう言って宗麟は自分の丼の中を見せた。



「っ! 宗麟、貴方!」



 宗麟のどんぶりの中は牛丼らしい茶色は一切見えない。真っ赤、完全に真っ赤なのである。一面に紅ショウガの入った牛丼並盛のどんぶり。



「俺はのぉ、牛丼屋に来ると、なんでか分からへんねんけど、この紅ショウガを大量に乗せて、食ってまうねん! 牛丼を食べたかったハズやねんけど、気が付けばな。まわりよう見てみぃ」



 ハッ! とツィタニアは周囲に座っている客のどんぶりを見る。サラリーマン風の男、学生らしい男女。

 そして塾帰りか、今から塾に行くのかそんな男の子。

 全員のどんぶりの中が真っ赤なのだ。



「なななな! こんな野菜の酢漬けに何が……というかこれあんまり良くない植物とかじゃないでしょうね!」



 そう気づいた時はもう遅かった。宗麟の目は完全に焦点が合っていない。一心不乱に真っ赤な牛丼、いや紅ショウガ丼の牛肉玉ねぎ乗せを食べている。



「ごちそうさん!」



 突然、食べ終わると、そのまま出ていくサラリーマン風の男。その男からは目には見えないオーラを感じる。



「これを食べる前と、食べた後だと、みなぎっている力が違います……このなんともガッつきたくなる素朴で家庭的な食べ物に……この紅ショウガなる物を乗せるだけで……その姿たるや、魔王軍と戦う人間たちのレジェンド級冒険者達のようです!」



 食べ終わる者達はこの牛丼屋との何かの契約のように、立ち上がると一言。「ごちそうさま」的な挨拶もとい合言葉を行って去っていく。

 ツィタニアは涙がでそうになった。皆満足したような顔をして死地に赴くように……



「まさか、異世界に」

「なぁ、精霊王サマ、どんぶりの中、見せていぃ!」

「な、なんででしょうか?」



 ツィタニアは心音が高鳴るのが分かった。宗麟がくいっとツィタニアの丼を見た瞬間。宗麟は絶句した。



「精霊王サマ、そらあかんやろ」



 真っ赤どころではなかった。席においてある紅ショウガ全てどんぶりの中にぶち込んである。



「いえ、食べているとこれが食べたくて、食べたくて……しかたがないんですよぉおお!」



 数時間後、二人は胃を荒らして、異世界級の痛みと戦う事になる。紅ショウガでは異世界には行けない。

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