第62話 大混乱の西方司令部
西方司令部の軍人たちは逃げ惑っていた。
指揮官不在で大混乱しているみたい。
司令部を半球状に覆っているシールドは完全には閉じていないようだ。
地面との間に隙間があり、軍服を着た人たちがはい出して来ている。
少年兵らしき男の子を無理やり捕まえた。
「なぜ総司令官を助けないで逃げるのよ!?情けない!!!」
「相手はジェラーニ王弟殿下なんですぅーー!
なぜ二人が戦っているのか、分からないんですよぉーー!
どうしたらよいのやらぁーー!」
ジェラーニ王弟殿下?
「街を守る人の味方しなさいよ!バカなの!?」
上官に逆らえない。軍人の欠点!社畜!
「シールドを張れる人は他にいないの!?」
「みんなウエスタ戦線に出ていて不在ですぅっっーーーー!」
少年兵は半泣きだ。
御前試合の時にイチが言ってた。
ジェラーニ王弟殿下の第二魔法騎士軍をディスっていたような。
___あそこは腐ってるからな。たいしたことない。
確かに腐ってる!!たいしたことないーー!
なんて頼りないの!
ん?逃げ惑うような頼りない人しか、留守番させてないってこと?
「どっちが敵か味方か分からないけど、市民を守る責務だけはハッキリしてるでしょ!
あなた騎士なんでしょ!?」
少年兵がハッとした顔をする。
ようやくしっかりしてきた。
「他の司令部に応援要請をして、市街地にシールドを張って!!
ストラウト総司令を助けるのよ!!
ゲートマスターに伝令を頼んで!
ウエスタ戦線に行ってるバーレント大佐を呼び戻して!」
「伝令だけなら僕が跳べます!ゲートキーパーなんです!!」
「ホントに!?」
「でも大佐の居場所がわかりません。ウエスタ戦線は適当に探すには広すぎます。
知っている人なら魔力の気配を追えますが、大佐の気配は僕では分かりません……。」
「ジョイセント・エニセイアさんを知らない?ゲートマスターの。」
「ジョイセント先輩なら知ってます!」
「きっとジョイさんがなんとかしてくれる!
マインティア様が危ないって、イチ大佐と西方司令部まですぐ帰って来てって伝えるのよ!
ルシャがそう言ってたって!早く行って!」
「分かりましたっ!」
彼が前方の空間に魔力を込める。
―――大地の絆を今ここへ。移動隙!
白い光を放つ小さなヒビが現れる。
狭いけど、小柄な彼なら通れる!
「行ってきます!」
「お願い!」
かなり頼りないけど、今は彼だけが頼みの綱だ。
***
シールドの隙間から司令部の敷地に入ったとたん。
突然の強い光。目がくらむ。
ドドドオオオオーーーーーーン!!!
「きゃぁぁーー!」
雷撃が近くに落ちた爆風で吹き飛ばされた。
「あ痛た、た。」
周りにいた人たちが負傷している。
酷い。
部下が死んでも構わないの?あのジェラーニって人おかしい。
マインティア様が本気で戦うわけだ。
こんな大きなシールドで街を守りながら戦うなんて、マインティア様の魔力は想像を超えるレベルだ。
でもいつまで持ちこたえられるか分からない。
ジェラーニから街を守れば、マインティア様は攻撃に集中できる。
大分楽になるはずだわ。
街への攻撃を邪魔するくらいなら、今の私にも……できるかもしれない。
『_____魔法を使ってはならない。』
兄上の最後のお言葉。
でも。
兄上、私はあの方を助けたい。
自分が傷ついても、貧民街の子供たちやシスターを見捨てない。
あの総司令官を助けたい。
ウエスタ戦線で私をかばって死んだ騎士の顔が浮かんだ。
迷っているとみんな死んでしまう。
ジェラーニがまた印を結び、詠唱を始めた。
「また街を攻撃する気!?」
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