第60話 貧民街の守り人

カツッ!!

教会の窓から閃光が見えた。


ドーン!という雷鳴。

ゴゴオォォ!!という地響きがとどろく。


「え!?雷?」


子供達がとび起きて泣き出す。

「ルシャ姉ちゃん!怖いぃ!」

窓から空を見上げると星がある。


おかしい。


夜空には雲一つなく、雨も風もない。

普通の雷じゃない。


「うわーーーん!」

「ギャーー!」


「大丈夫ですよ。雷はすぐにやみますから。」

怖がる子供たちをシスターたちが必死になだめている。


肌がザワザワし始めた。

なんだろう?こんな感じ久しぶりだ。


「シスター!私ちょっと様子見てくる!」

「こんな夜に一人で!?」


“いけません!”と言われる前に外へ飛び出した。

外の方が肌がピリピリする。


バーーーーーン!!


雷が教会の鐘楼をかすめた。

バラバラとレンガの破片が飛んでくる。


「キャァーー!」

「怖いよぉーー!!」

子供たちの泣き叫ぶ声。


周囲の街の人たちも恐怖の声をあげる。

「教会に落ちたぞ!」



夜空は晴れているのに、水平方向に飛んで来る雷。


「雷撃だわ。」


近い。飛んできた方向は西方司令部?




誰か戦っているの!?

こんな街のそばで!?



私は西方司令部へ向けて走り出していた。



***



「これは意外だな。アイスマスターともあろうお方が、貧民ゴミどもをかばうとは!」

ジェラーニが残酷に笑う。



「冷酷非道な総司令官が?信じられんな!

出世のために何人の上官を殺した!?」



「そんな噂を信じているのか?愚かな。」と、言ったものの。

まぁホントだけどさ。


ノーコン野郎め。

私にちゃんと当ててくれれば楽だったのに。


攻撃を受け続けるのは得策ではないが、適当に雷撃に当たりつつ郊外まで誘い出そうかと思っていたのにな……。


そのためには貧民街の上空を飛ばねばならない。

ジェラーニの下手な雷撃がそれて街に落ちるのを危惧していたが。


やれやれ。

郊外に誘い出す前に、こちらの考えを悟られてしまった。

一般市民に被害は出さない。絶対に。



王宮は近衛隊がシールドを張る。

だが市街地まで守る人員はいない。

雷撃が一発でも市街地に落ちれば、人的被害は甚大だ。



広域シールドを西方司令部を覆うように張りめぐらした。

雷撃を外に出さない戦略で行くか。


「西方司令部の敷地内でかたをつけるしかないな。」

軍人の犠牲はやむを得ない。

殉職した奴等は二階級特進させてやろう。




ジェラーニはニヤリと笑い、貧民街に向けて雷を放った。

―――散雷弾!

ガガガーーーーン!!

バチッ、バキバキバキーーーー!!


私の広域シールドで跳ね返った雷は、司令部の敷地内に落ちた。

さっきの雷より強力な呪文にレベルを上げてきた。


「市民を人質にするつもりか?」

「郊外の貧民ゴミのことか?あれらは市民じゃないさ。キレイになる。」


ゴミか……。

「ゴミはお前だジェラーニ。」


軍人が市民を守ることを忘れたら、ただの人殺しだ。

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