第39話 パワハラ上官

ティアはたまに、第五の俺の部屋にふらっと来たりする。

楽に飛べるヤツはいいよな。

コイツは水属性のくせに、風も扱える。

俗に言う境界型の精霊使いだ。

器用なヤツ。


来る時はだいたい酒を持ってくる。

士官学校在学中の時には、もうすでに酒豪だった。

本物のワルだ。

コイツが酔ったところを見たことがない。

今夜はウイスキーを流し込んでいる。



***



「イチ!今日、医療院で彼女と話したよ。」

「ふーん。」

ティアの持って来たウイスキーを俺もあおる。美味い。


「彼女、かわいいね。でも普通の街娘じゃない。」

「なんで?そう思う?」

「私の誘いを断った。」

「うぬぼれるな!ザマーミロ!いいきみだ!」


ティアがフフッと笑う。

「それだけじゃないさ。

殺すつもりだったことを告白したけど動じなかった。」

「ハァ!?オマエはあほか!」


「あとさ、イチと結婚してあげてって彼女にお願いしてきた。」


「ハアァーーーーーーッっ!?何でいきなり結婚なんだよ!?

オマエは何を考えてるんだ!?」


「君の人柄の良さをアピールしてきたよ。

『イチが君を殺すのはやめようと言ってくれてるよ』ってね。」


「余計なこと言うな!だいたいそれ、人柄の良さアピールになってねぇ!!」





「援護射撃のつもりだったのになぁ。」

「何の援護だよ!?

ってか、自分で最初に誘っといて、断られたら俺に回すのやめろよな!

感じ悪いな!鬼畜!タラシ!なんなんだよ!?」





「君が珍しく女性に興味を持ってるみたいだからさ。応援しようと思ってさ。」

「俺はいつでも女に興味いっぱいだ!男好きみたいな言い方するな!」


「そういう意味じゃないよ。親友として君に愛しい存在ができるのは、良いことだと思ってる。」

「ハァ!?キモっ!」


「ハイド様にも聞かれたことがあるんだ。」

「親父が?なんて?」

「『イチには彼女いないの?結婚の予定はないの?』って。『イチは家庭を持った方が強くなるのに』って。」

「興味なし!」




「あの子、相当な教育を受けている。

たんに度胸がいいだけじゃない。身元が気になるし。殺すのはやめる。


身元がハッキリするまで…逃げないようにさ。結婚しなよ!

いきなり結婚はハードルが高いのか?君の彼女にしたらいい。

可愛らしいし、監視もできる。一石二鳥だ。」


「ハア?なんでよりによって、あんなガキなんだよー。

ついこの間まで、殺す気満々だったじゃないか。

なんだよ急に。おススメしてきて。」

「彼女、君を怖がってない。それが一番大事なんだ。」


「俺を怖がらないやつはたまにいる。」

「ふーん。どんな人?」

「俺より強い奴か、死んでもかまわないと思ってる奴。」

「彼女はどっち?」

「知らん。たんに悪魔使いのことを知らないだけだろ?コドモだからな。」


「コドモを落とす自信ないの?まぁ、いきなり結婚しなくてもいいよ。

本気じゃなくてもいい。ちょっと遊んであげながら、様子を見たらどうかな?」


「オマエが遊べ!」


「私は忙しい。」


「俺もだ!」


「これは任務だよ、バーレント大佐。」


「パワハラだ!」



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