第29話 魔力復活のキス
ドドオオオォォォォーーーーーー!!!!!!!!
地鳴りのような爆発音がして地面と空気が振動した。
ゴオォオォォ!ーーーーーー!
嵐のような猛烈な風が敵兵と矢を吹き飛ばしていく。
黒い羽のような影がイチを縛り上げていた縄を切り刻んだ。
これは何?
イチは私を抱きしめながら、まだ口づけをやめない。
「もっと…!」
何度も何度も口づける。
「ルシャ…もっとだ…!」
体の奥が熱くなるのを感じた。私の中から何かがイチに流れ込む。
イチの魔力が高まっていくのが分かる。
イチもまたそれを感じているようだった。
口づけしたままの格好で敵将をギロリと
黒い羽のようなものがあたりをグルグル舞い始める。
―――闇に舞い堕ちし者共よ集え。
羽はやがて細長く鋭い
ビシッ、ビキ、ビキ、バキッ。
何かを折り曲げるような、噛み砕くようなそんな音がする。
すごい暴風で目を開けていられない。
「ヒィーーっ!」
「ギャァァーー!!!うわぁあぁぁぁぁーーーーー!!!」
敵兵の叫び声はやがて轟音にかき消され、私は彼らの末路を見る前に気を失った。
***
目が覚めるとテントの天井が見えた。
あれ?みんなは?
左腕がズキズキする。熱いし痛い。
体を起こそうとするのに、力が入らない。
そこにジョイさんがテントの入り口からヒョコッと顔だけのぞかせた。
「ルシャちゃん!良かったー!もう大丈夫だからね。」
明るく笑いながら横に座る。
“イチは?”と言いかけて、「みんなは?」と言いなおす。
「なんとか無事だよ。ルシャちゃんの活躍でね。」とウインクして見せた。
この人の笑顔は本当にほっとさせてくれる。
じわっと涙がでそうになる。
「敵は?」
「あー。全滅。」
「全滅?」
「大佐がブチ切れちゃってー。」
そんな会話をしながら、私の体を少し起こしてお水を飲ませてくれた。
「傷が元で熱が出てるから安静にね。ともかく今は横になっていて大丈夫だから。」
そう言ってまた外に出て行ってしまった。
よく分からないけど、助かったみたい。ボーっとする頭で外の声を聞いた。
「アジカ重傷者は?」
「18人です。」
「ジョイ!ゲートを作れ!」
「了解しました。」
「今日中にここをとっぱらうぞ!」
「はっ!」
テキパキと指示を飛ばすイチの声が聞こえる。あんなに殴られたのに元気そうだなと思いながらまたウトウト眠りにおちた。
***
私はゲートで帰ってきたらしい。
ウィンクルさんが額に手をあてて、熱の具合をみてくれている。
香水の甘い香りがする。
「怖い目にあったね。疲れたでしょう?
傷がもう少しふさがったら、うちの自慢の温泉で湯治しようね。
のんびりしてて。
どうせウエスタ方面から帰還したら二週間は外出禁止なの。」
「どうしてですか?」
「あっちの方に行くと感染症をもらって帰ることが多くてね。
心配しないで、ルシャちゃんの熱は感染症じゃないよ。
イチ大佐の魔力に当てられちゃったのかな?
新兵が大佐のそばで巻き込まれて、寝込んだりするのしょっちゅうあるから。
慣れてない人には、悪魔使いの魔力って刺激的だからね。」
ウィンクルさんが「もう教会へ帰してあげよう」とイチに提案してくれたらしい。
でも「コイツだけ特別扱いはできない」と却下されたそうだった。
「他の騎士たちも我慢している」と。
部下のために温泉大浴場とか作ったのかな?
たんに自分が入りたいからではないのかもしれない。
「ルシャちゃんに、いいニュースがあるよ。」
「何ですか?」
「イチ大佐の魔力が完全に復活したみたい。」
「本当ですか!?」
「もうお手てつながなくても大丈夫だね!ウフッ。」
これでお手てつなぎ生活から解放される。
きっとシスターや子供たちが心配してる。
早く教会に帰って、普通の暮らしがしたい。
そうすれば嫌なことを忘れられる。きっと。
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