第19話 ルシャの男装

軍隊に同行することになるなんて、思いもしなかった。

戦場ってどんな生活なのかな?

私は不安になった。



***



「ウエスタ戦線での暮らしって、どんな感じになるんですか?」


「風呂に浸かれないくらいで大差ない。」

イチが普通に言う。


「いやいや!イチ大佐はね、それくらいしか感じないでしょうが。

テントでキャンプ生活なので、不慣れなルシャちゃんにとっては、不便なこともあるかと。」

ジョイさんが慌てて訂正した。


「どれくらいの期間ですか?」


「うーん、1ヶ月くらいかな?」


「1ヶ月!?」


つらそう。


「女の子らしい格好では危険かもしれません。さすがに目立ちすぎます。」

ジョイさんは何やら考えてくれている様子。


「髪を切れ。」

イチがバッサリと言った。


「酷いオジサンね!」

「何だとぉ!?オマエなぁ、俺をオジサン呼ばわりするのはオマエくらいだ!!」



ブツブツ言い始めるイチを見て、ウィンクルさんが助け舟を出してくれた。

「イチ大佐、そんなかわいそうなこと言わないであげて。髪は女の命よ。

ワタシが部屋で男子コーディネートしてあげるから!」



ウィンクルさんの部屋は女の子らしく、ピンクに統一されていてカワイイ。

服はセクシーだけど、部屋はフリル満載の少女趣味だ。


鏡を見ながら考える。

「こうして頭にターバン巻いて、髪を入れ込むの。帽子かぶって、メガネかけて。

暑いだろうけど、胸にも布を巻いときましょう。テントの中以外では取ってはダメよ。ダブっとした軍服を着たらー?」



***



「じゃーん!どうみんな?

少年兵に見えなくもない…かな?」


「おおっーーーっ!!」

食堂にいる騎士たちの間で、なぜか歓声が沸く。


嬉しくない。


「胸がなくて良かったなぁー。ぺったんこー。

男だ。男だぁー。ハハハハッーー!!」

イチがはやし立てる。


超ムカつくんですけど。


「ワタシが一緒に行ってあげたいけど、今回は留守番役なの。

困ったことがあったらジョイに言うのよ。なんとかしてくれるわ。あの子優しいから。

ジャングルでは珍しい植物も見れるわ。きっと秘薬の勉強にもなるからね。」


ウィンクルさんは私を励ましてくれた。


そっか。秘薬の勉強にはなる。

植物図鑑で予習しよ。


ウエスタ連邦はノーシア王国の西方に位置する。

もめているのはの南西の国境地域で、植物も熱帯地方のものだ。

きっとノーシアにはない植物が採取できるはず。


こっそり持って帰って、売っちゃおうかな!



この時の私は「後方の補給隊」という言葉に、ちょっと甘いイメージを持っていた。

すぐに後悔することになるなんて、思ってもいなかった。



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