(33)
「お呼びでしょうか、男爵様」
シスターマリアは聖女のオーラを発散させながら、しずしず執務室の中に入ってきた。
「わざわざ呼びつけて済まないわね、シスター。で、早速お願いがあるんだけれど――」
「男爵様、要件は察しがついております。これから始まる戦いに備え、負傷した方々を受け入れる態勢を急ぎ整えてほしい――そういうことではごさいませんか?」
「さすがシスター、その通りよ。あなたにはここにいるユウちゃんと組んで、負傷者の治療を是非お願いしたいの。本当は聖職者であるあなたを戦いに巻き込みたくはないのだけれど……」
「男爵様、お気遣いには及びません。わたくしが軍に同行した目的は戦いで傷ついたみなさんの面倒を見るため。そしてそこにユウト様が加わってくださるのなら、まさに
「ありがと! ユウちゃんもそれでいい?」
本当なら今すぐにでもリナのところへ飛んでいきたいが、この状況で断れるはずもない。
それに今回はシスターマリアという心強い回復要員がいてくれるのだ。
協力して負傷者の治癒に当たり、戦闘がひと段落したら、彼女に事情を打ち明け、城を抜け出すことができるかもしれない。
「ええ、了解しました」
と、僕はうなずいた。
「じゃあ二人とも急いで頼むわね」
男爵が僕とシスターの肩に手を置いた。
「 あ、当然のことかもだけど城の施設を自由に使ってね。それと物資だけでなく人員――メイドたちにもあなたたちに最大限協力するよう伝えておくから。 ――あらッ!!」
と、その時、突然「ドン、ドン」と大きな衝撃音が連続して響いた。
今までは静寂は嵐の前の静けさだったのか、聞き覚えのあるこの音は――
「どうやら始まったようね」
と、男爵が顔をしかめる。
「あれはきっと投石機を使って石をブン投げている音だわね。でも大丈夫。この城は
そうか。
セルジュが単独でワイバーンを使い真っ先に上空から攻撃を仕掛けてきたのは、おそらく普通の方法ではデュロワ城の城壁を破壊できないと踏んだからだろう。
それだけこの城の守りは固いに違いない。
「さあ参りましょう、ユウト様」
と、シスターマリアが言った。
「この戦いおそらく今までにない激しものになるでしょう。それだけ多くの方が傷つくに違いありません。及ばずながらも、そんな方々を一人でも多く救うことが神が私に与えし使命なのです。ですからユウト様もどうかご助力ください」
「は、はい」
シスターの聖職者の威厳と
すると、投石の音に加え、人間の怒声と獣の咆哮が入り混じった、激しくうねるような雄叫びが外から聞こえてきた。
ついに始まった。
数万のコボルト兵と数千のイーザ騎兵の連合軍が、デュロワ城に一斉に攻撃を開始したのだ。
この一気呵成に城を攻め落とそうとする感じ――その様子は見えずとも、どうやら二つの軍はそれなりに連携と統制は取れているらしいことぐらいは分かる。
最後に生き残るのは、僕らか、あるいは彼らか――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます