(19)

 セフィーゼは中庭の中央付近で、数十人の城の守備兵たちに囲まれていたが、全く相手を寄せ付けない一方的な戦いを繰り広げていた。 


『エアブレード――!!』


 セフィーゼの一度の魔法で、二人の兵士が、ほぼ同時に体を二つに割られてしまった。

 さらに別の一人は腕を切断され、悲鳴を上げ、地面をのたうちまわる。


 それはまるで、ゲームの世界でLV100の魔法使いがLV10の一般兵を一方的に無双していくような、凄まじい光景だった。


「みんな、ぜんいん、私の魔法で殺してあげる!」


 中庭の中央で、セフィーゼが勝ち誇ったように声高に叫ぶ。

 本来のおとぎ話のかわいらしい妖精のような姿も、今は無残。

 全身を血であけに染め、目をらんらんと輝かすその姿は、確かに人殺しに目覚めた狂人そのものだった。   


「なるほど、これはかなりハイレベルな風魔法ですね」

 と、それを見ていたクロードがピントのずれた感心の仕方をする。

「あんなよわいで、あれだけの魔法が使えるとは中々大のものです」


「おい、いい加減にしろ!」

 そんなクロードに向かって、アリスが食って掛かる。

「お前ができないのなら、私がセフィーゼをこの剣で成敗してくれる」


「どうかお気をお静め下さい、アリス様」

 と、クロードがなだめるように言い返した。

「そう激高なされては、あのセフィーゼという少女を生きたまま捕えることは難しい」


「確かに私はそう言ったが、今は非常事態だ。これ以上わが軍に余計な死人を出してたまるか!」


「ご安心ください。今から私の魔法でセフィーゼを無傷で捕えてみせますから。――が、その前に、できれば彼女を孤立させたいのです。少々扱うのが難しい魔法ですし、他の兵士たちを巻きこみたくないですからね。囮を使ってどこか袋小路のような場所に誘い込めるといいのですが」


「よし、ならばその役目、私が引き受けよう! セフィーゼは私を親の仇として憎悪している。囮になるにはちょうどよいだろう」

 

 アリスはそう叫んで、さっそく塔の外に飛び出そうとした。

 が、マティアスがそれを見逃すわけがなかった。

 アリスに飛びつき羽交い絞めにして、動けなくしてしまう。


「それなら僕が行きましょう」

 暴れるアリスを差し置いて、僕はクロードに申し出た。

「セフィーゼは魔法を封じこめた僕のことも少なからず恨んでいるはずです。釣り餌にくらいにはなれるかもしれません」


「おお! ユウト君、そうしてくれますか?」

 クロードは微笑んで言った。

「確かにあなたの魔法の実力なら、あの少女に十分対抗できる。まさに適任です」


「おまかせください。では――」

 と、僕は辺りを見回して言った。

「……そうですね。向こうに見える城壁と城の別館の間の辺りにセフィーゼを誘導してみます」


 その危険な役目を僕が買って出たのは、セフィーゼを捕えるためだけではない。

 決闘デュエルで負けを認め、一度は素直に引き下がる約束をしたセフィーゼが、なぜこんな風に変容してしまったのか、自分の口で訊いてみたかったからだ。


「待てユウト! お前一人を危険な目に合わせるわけにはいかぬ――」


 と、マティアスに抑え込まれ叫ぶアリスを残し、僕は塔から中庭に出た。

 そして素早くセフィーゼの方へ向かって歩き、思い切り叫んだ。


「セフィーゼ――!!!」

 

「ユウト……!!」


 セフィーゼは不意打ちを食らったように、ぎょっとして僕の顔を見た。

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