(4)

「お前ら!」

 と、セルジュがワイバーンたち乱暴に命令を下す。

「もう雑魚はどうでもいい! とにかく城壁を徹底的に壊しちまえ! この城にアリス王女が隠れてることは分かっているんだからな、絶対に生け捕りにするんだ!」


 やっぱり、セルジュの狙いはあくまでアリスらしい。

 相変わらず己の欲望優先で、戦いに勝利することなど二の次三の次なのだ。

 

「ったく、あのクソガキめ!」

 それを聞いていたエリックが忌々しげに言う。

「かわいい顔してるくせに、かわいくねーこと抜かしやがる」


 しかし、どうする?


 たとえセルジュの目的がアリスだとしても、城壁を破壊された時点でロードラント軍の負けは確定。

 エリックの指摘通り、城の中になだれ込んでくるコボルト兵やイーザ騎兵に抵抗するすべはほとんどないからだ。

 なので、そうなる前に、何としてでも十二体のワイバーンをやっつけなければならないのだが――


 弓矢や槍では太刀打ちできない空飛ぶ怪物相手に、何かダメージを与えられそうなものはないか?

 と、僕が城の屋上を見まわしていると、突然セルジュが叫んだ。


「ああっ! お、お前、あの白魔法使い!!」


 この中で白魔法使い――

 ということは、僕以外いない。

 

「よくもよくも!」

 セルジュはワイバーンに跨ったまま僕を見て、顔を真っ赤にして怒っている。 

「俺のレムスを殺られた恨み、忘れねーぜ!!」

  

 ……正確に言えば、襲いかかってきたサーベルタイガーのレムスを剣で突き殺したのはアリスなのだが、セルジュはそう思っていないらしい。 

 しかも、あれは完全な正当防衛。

 恨まれる筋合いはまったくないはずだが、身勝手な悪童セルジュにその理屈は通じない。

 

「おい、命令は一部撤回だ! ドラゴ、お前はあいつを殺せ!」

 セルジュは僕を指さしながら、怒りまかせに喚き散らした。

「他の奴らはとっとと城壁を壊す石を運んで来い。さあ行け!」


 セルジュの態度は極めて横柄だが、それでもワイバーンたちは獣使いビーストテーマ―の命令には従順だった。


 セルジュを乗せたワイバーンを除く十一体のうち、十体は石を探しに北の方角へ一斉に飛び去っていった。

 そして残りの一体、近くを飛んでいたワイバーン・ドラゴが、僕を標的にして風を切り爪を立てながら急降下を始めたのだ。


「行けドラゴ!」

 と、上空からセルジュがけしかける。

「ぼろきれみたいに爪で八つ裂きにしちまえ!」


 ――くそっ、まだ戦う手立てを何も思いついていないのに!


 やむを得ない。

 ここはとりあえず『ガード』の魔法でしのぐしかない。

 そう思って僕が魔法を唱えようとした時、エリックが矢をつがえた大弓を引き絞りながら言った。


「ユウト、俺が弓を放ったら『エイム』の魔法で奴の目を狙え!」


「わ、わかった」


 なるほど、エリックは僕がハイオークを倒した時のことをヒントに、ワイバーンの急所を狙い撃ちするつもりなのだ。 

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