(31)

「今は時間がないから、理由は後でそこにいるユウト君に訊いてみて」

 シャノンはそう言って、ぐったりしたリナを大事そうに抱っこした。

「それじゃ、今度こそサヨナラ!」

 

 それからシャノンは再び天高く跳び――

 カエルでも驚きそうな人間離れした跳躍力で、まるで飛び石を連続ジャンプでぴょんぴょん渡るようにあっという間に先へ進んで行ってしまう。


「ああ! また逃げた!! 待て待て~卑怯者――!」


 リナが人質に取られている以上もうミュゼットは魔法を使うことができない。

 なのでミュゼットは、シャノンを走って追い始めた。

 

 だが、厳しい。


 ハイオークから逃げ回るときに見せた、ミュゼットの敏捷性。

 確かにあのすばしっこさだって並みの能力ではない。

 しかしそれでも、あのシャノンの光のような速さには及ばないだろう。


 要するに、さらわれたリナをシャノンから取り戻すことはミュゼットには不可能。

 そして当然、シャノンはリナをヒルダの元に連れて行き―― 

 その後はいったいどうなる……?


 どう考えても絶望的な展開だ。


 僕はふっとその場に崩れ落ちた。

 痺れ薬のせいだけではない。

 リナを守れなかった自分の不甲斐なさに、心が真っ二つに折れてしまったのだ。


 これがリューゴだったら、果たしてシャノンからリナを救えたのだろうか――?

 

 そんなことを考えながらも、急速に意識は薄れていった。

 男爵の叫びだけが、耳の奥にかろうじて届く。


「ちょっとユウちゃん! しっかりして! あらヤダ、どーしましょ!」

 男爵が駆け寄り、僕を抱き起こそうとする。

「ねえ、お願い目を覚まして! んー困ったわ。……そうだ、アタシの熱いキス――いや、人工呼吸で……」


 と、そこで記憶は完全に途切れた。

 結局、最後の最後で油断してしまったのは、ミュゼットではなく僕だったわけだ……。

 


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