(13)

 僕は『炎の壁ファイウォール』を破壊することをいったんあきらめ、ミュゼットに向かって叫んだ。


「ミュゼットさん、早くこの結界を解いてください! 僕が助太刀しますから! でないとたいへんなことになりますよ!」


 けれど――


「ヤダ! それだけは絶対ヤダ―!」


 ミュゼットはハイオークの攻撃から必死になって逃げ回りながらも、その申し出を断固として拒否したのだった。

  

「どうして!」


 このままだと確実に負けるのに、ミュゼットはなぜそこまで意固地になるのだ?

 王の騎士団キングスナイツとしてのプライドが許さないのか、それとも何か別のワケが――?


 今一つ理由が分からず頭を抱えていると、ミュゼットの悲鳴が聞こえてきた。


「きゃあっ!」


 言わんこっちゃない。

 ジャンプしようとした際、ハイオークのパンチで出来たクレータの一つに足を取られて、地べたにすっ転んでしまったのだ。


「いたた……」


 ミュゼットは顔をしかめ、ふくらはぎ辺りをさすっている。

 どうやら足をくじいて、ほとんど動けないらしい。 


「んもー! 外野がうるさいから気が散ってコケちゃったじゃん!」 

 

 八つ当たり気味に叫ぶミュゼット。

 それを見たハイオークが攻撃する手をピタリと止めた。


 もう急いで獲物の息の根を止める必要はないということだろう。

 ハイオークは「グルルル」と不気味に喉を鳴らしながら、ドシンドシンと重い足取りでミュゼットに近づいていく。


 

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