第二十章 再び戦場へ

(1)

 ティルファをようやく眠らせることに成功した僕たちは、“癒しの間”から廊下に出た。


 ただ、シスターマリアだけはどうしても一晩ティルファに付き添ってあげたいと言い張り、一人で部屋に残ることになった。


「看病する方も、休息は必要なのにねェ……」

 シスターの申し出を不承不承ふしょうぶしょう認めた男爵が、困り顔で言う。

「アリス様、ユウちゃん、よくって? 若いからって無理は禁物、アナタたちはゆっーくり休まなきゃダメよ。いろいろ考えなきゃいけないこともあるだろうけどさ、それはすべて明日になってから!」


 有難い。

 疲れ切った心に男爵の言葉がジーンと染みる。

 本当は一刻も早くエリックたちを助けに戻らなければいけないのだけれど、今は体がどうしても言うことを聞かない。

 ただひたすら休みたいのだ。


「部屋はもう用意してあるから、すぐに案内させるわね。――リゼット、ロゼット悪いけどお願い」


「かしこまりました」


 おしゃれなメイド服を着た侍女のリゼットとロゼットがお辞儀をし、僕たちに言った。


「アリス様、ユウト様、それではご案内します。どうぞこちらへ」


 しかし、アリスは声を掛けられても、うつむいたままそこから動こうとしない。

 ぎゅっと拳を握りワナワナ震えている。


 どうも様子が変だ。

 と、心配になって、アリスの顔を覗き込もうとすると――


「なぜだっ! なぜこんなことになったっ!」

 アリスが突然叫んだ。


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