(5)

「すまぬグリモ。お前の歌と踊り、なかなか愉快だったぞ。それで一気に目が覚めた」

 アリスは落ち込むマティアスを捨て置き、男爵に歩み寄った。


「あら、アリス様ったらお人が悪い! 最初から見ていらしたのならお声をかけてくださればよかったのに!」


「いや、黙って眺めていた方が面白いと思ってな」

 アリスは笑って言った。

「しかし、まさかマティアスとグリモが昔、そんな深い関係にあるとは思わなかったぞ」


「見栄っ張りですから、この人」

 と、男爵がマティアスを見下す。

「男同士で付き合う、っていうのが騎士の沽券こけんにかかわると思っているのです。出世にひびくと思っているのです」


「それは違うぞ、マティアス。男爵がさっき言っていた通り恋愛は自由。お互い好き合えばそこに男も女も関係ないだろう。だからお前の相手がたとえ男でも私は大いに結構なことだと思う」


「さすがアリス様! お心が広いわ! それにくらべそっちの偽の王女様ときたら……アタシたちをほとんど異常者扱いして」


 そう言って男爵は今度はリナをじろりとにらんだ。


「ス、スミマセン……」

 リナが下を向いて小声で謝る。


「もういいグリモ。お前もリナにずいぶん酷い言葉をかけていたではないか。だからおあいこ、ということで決着しろ」


「あら! それはどうもごめんあそばせ!」

 男爵は謝りつつも、リナに向かってベーと舌を出した。 


「み、見ましたか! ユウトさん!」

 リナは男爵の態度に憤慨して、僕に愚痴る。

「今、あの人ベロを出しましたよ、ベロを。こっちが悪いと思って謝ったのに、なんなんですか、もう!」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ああ……それにしてもなんてバカバカしい騒動だったんだ。

 いい加減、デュロワ城の中に入って少し休みたい……。


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