(2)

「正解! 正解ですぅ!」

 男爵はぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。

「アリス様はちゃーんと覚えていてくれたのですね! グリモ、感激いたしましたわ!」


 同じ“クロミス”なのに“塩焼き”は大の好物で“ソース焼き”は大の苦手――

 その差はなんなんだ。

 焼き鳥の塩とタレみたいなものだろうか?


 いや、そんなことよりアリスとグリモ男爵はどういった関係なのだろう。かなりの親しい間柄らしいが……。


「食い物に関しては幼いころお前に散々薫陶くんとうを受けたからな。忘れるはずもない」

 と、アリスが肩をすくめる。  


「そうですとも、アリス様! 食に関する知識見識は大事な帝王学の一環――王位を継承するために必要不可欠な教養なのです」

 男爵がウキウキしながら言った。

「昨今の宮廷料理人ときたら、何でもかんでもくどく濃厚な味付けをするばかり。料理にとって最も大切となる素材本来の味を殺してしまっているのです。そしてそれは美食家グルマンとしても許しがたいこと――そもそもクロミスという食材は……」


「グリモ、わかったわかった。料理の話になるとお前は止まらなくなるから、そこら辺でやめておけ。それよりこれですべての質問の答えは出た。皆も疲れ切っているようだしそろそろ城の中に入れてはくれないか? 積もる話をするのはそれからでいいだろう」


「ええ! もちろんですとも! ――衛兵! 早く跳ね橋を下ろしてちょうだい!」


 グリモ男爵はそう命令したが、しかし――もう間に合わない。


 僕は大勢の人と馬の気配を背後に感じ、後ろを振り向いた。

 するとそこには、武装した数十騎の騎士がデュロワ城に向かって、猛然と走ってくる姿があった。


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