(4)

 もしかしたら、この前と同じような嫌な目にあうかもしれない……。

 その甘い香りをかいだせいで、僕は前回の先生の冷たい態度のことを思い出してしまった。


 だが、今は本当に気分が悪いのだ。

 保健室はそういう時のためにあるのだから何も遠慮することはない、しばらくベッドで休ませてもらおう。


 そう思って入り口のドアに手をかけると――


 ……!?


 保健室の中から、なにやらひそひそ声が聞こえてきた。

 どうも普通の会話ではない、いかがわしげな雰囲気だ。

 今、中に入ってはまずいような……。


 一瞬迷ったが、いつまでも廊下で聞き耳を立ているわけにもいかない。

 ええいかまうものか、と僕はドアをソロリと開けた。


 保健室はかなり広い。

 デスクや棚、ロッカーの他にベッドが三台並べてあってもまだ余裕がある。

 しかしパッと見て、どこにも日向先生の姿は見えなかった。


 あれ?

 さっきのヒソヒソ声はどこからしたのだろう?

 と、部屋の中を見回すと――


 ベッドだ!

 ベッドの方に人の気配がする。


 が、その周りにはカーテンが引かれ誰がいるかはわからない。

 カーテンの影に二つのシルエットが見えるだけだ。

 どうやら一人はベッドの上で上半身を起こし、もう一人はその脇に立っているようだ。

 

 そして、二つの影は密着しもそもそ動きながら、


 「……ふふふ」

 「……イヤ」


 と、しきりに囁き合っている。

 何を言っているかよく分からないが、どちらも女の人の甘い声なのは確かだった。


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