(11)

「駄目です!! セフィーゼ」


 ヘクターが大声で叫んだ。

 セフィーゼが魔法で僕を処刑しようとしているのに気が付いたのだ。

 だが、もう遅い。


『エアブレード――!!!』


 と、セフィーゼが魔法を唱え終わる寸前――

 僕は叫んだ。


『リフレクション!!!』 

 

 瞬時に、透き通るような薄い鏡の板が多面体を形成し、僕の体をすべて囲みこんだ。

 無数の鏡面に陽光が反射しきらりと光り、セフィーゼの放った虹色の風は、そこへもろにぶつかった。


「きゃあああああああーー」


 1、2秒間を置いて、セフィーゼがけたたましい悲鳴を上げた。


『エアブレード』の虹色の風は、『リフレクション』の鏡の壁に当たって跳ね返り、まるで光が乱反射するかのように四方八方に拡散して跳び散った。

 そして、その一部がセフィーゼに命中し、小さな体を数メートル吹き飛ばしたのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『リフレクション』



 鏡でできた多面体で自分の周りを取り囲み、敵の魔法を跳ね返す防御魔法。

 白魔法なのに、場合によっては敵にダメージを与えることができる。

 ただし効果が高い分、極めて短時間しか効力は続かない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



……まさか死んでないよな。


 『エアブレード』の威力は『リフレクション』に跳ね返された際、分散してかなり減少したはず。

 戦う前に調べたセフィーゼのHPの数値から考えても、多少ケガを負っただけで済んだはずだ。


 だが、セフィーゼは地面に倒れこんだまま、まったく動かない。

 それを見て僕は急に心配になった。


『エアウィップ』の風の対流は、セフィーゼからの魔力の供給が止まり一瞬で消し飛んだ。

 魔法の罠から解放された僕は、慌ててセフィーゼに駆け寄った。


「あの、大丈夫……?」

 と、声をかける。


 ところが――


「ユウト! よくも……よくもやってくれたわね」

  

 セフィーゼはよろけながら立ち上がった。

 頭を切ったのか、顔にたらたら血が流れている。


「絶対に許さないから!」


 般若の形相で叫ぶセフィーゼは全身傷だらけで、ゼーゼーと肩で息をしている。

 立っているのがやっとという感じだ。

 跳ね返った『エアブレード』の破片で受けたダメージは、思ったより大きかったようだ。

 少なくとも、とても戦える状態ではない。


 しかしセフィーゼは諦めない。

「わ、わたしは、大陸一の風の魔法使い……あ、あんたなんかに負けないんだから」

 そう言って、何かの魔法を唱えようとしている。


 まだやる気なのか……。


 僕はがっかりしながら、てショートソードを持ち直した。

 ここで躊躇ちゅうちょしてはいけない。

 きっちり決闘デュエルを終わらせるのだ。


「セフィーゼ――」

 僕はセフィーゼにショートソードを突きつけた。


「ひいっ」

 セフィーゼが短い悲鳴を上げる。


「もう勝負はついたんだ。素直に降参しなよ」


 こんないたいけなに、いったい僕は何をやっているんだろう?

 そう思うと、気がとがめてしょうがなかった。 


「だ、誰が、降参なんか……」


 恐怖のあまりセフィーゼは呂律ろれつが回らない。


 頼む。

 頼むから敗北を認めてくれ。


 このまま時間が長引けば、アリスは必ずヘクターにやられてしまう。

 捕まって人質になるか、はずみで殺されてしまうことだってあり得る。

 そうなってからでは遅いのだ。


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