(22)

「さてセフィーゼ――」

 アリスが唐突に話を切り替えた。

「やはりお前は嘘をついていたな」


「え……?」


「今さっきお前は言ったではないか、『わたしは無抵抗の人間は殺してない。戦争だから仕方なくやったんだ』と」


「あ……」

 虚を突かれ、セフィーゼはひどく狼狽ろうばいしている。


「ところがお前は捕虜を――無抵抗のロードラント人を大量に殺した。言っておくが、彼らも故郷に帰れば妻子や親兄弟がいる普通の人々だったのだ。むろんそこらに転がっている、お前が魔法でズタズタに切り裂いたボロキレのような死体も同様だ」


「そ、そんなこと……」


「もしやお前は今までそういった想像を――残された者の悲しみを考えたことはなかったのか?」


「違う。何も感じなかったわけではないわ…………」

 セフィーゼの声はほとんど消え入りそうだ。


「お前はこうも言っていたな。『命には命で償ってもらう、私は全然殺し足りない』と。だが、たった一人で無辜むこの捕虜を何百と殺ったことが露見ろけんした今でも同じことが言えるのか? それともまさか魔法で人を殺すことに楽しみを――快感を覚えてしまったのか?」


「やめて……わたしは楽しんでなんかない…………………」

 セフィーゼはワナワナと震えている。


「その様子だと少しは良心の呵責かしゃくを感じているようだな。ではもう一つ肝心なことを言っておこう」

 と、アリスはさらに語調を強めた。

「今ここに残ったロードラント軍は、ハイオークやコボルトどもに痛めつけられ疲弊ひへいしきっている。お前が魔法を使えば何もできずに全滅だ。

 セフィーゼ、私が言いたいことはわかるな? お前がそれでも私たちを攻撃すると言うのなら――それは戦争ではない、虐殺と同じだ」


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