(11)
ところがその時、ロードラント軍の兵士に呼びかけるセフィーゼの声が、僕たちにまで聞こえてきた。
「なんだったら、あんたたちがアリス王女の首に縄を付けてわたしの前まで引っ張ってきてもいいのよ。そしたら全員無事に帰してあげる」
それを聞いた兵士たちが一斉に色めき立つ。
しかもなかなか騒ぎが収まらない。
まずい。
まずいぞこれは。
――自分たちが助かるために主人であるアリスの首を差し出す。
普段なら決して許されない
心を動かされる兵士がいてもおかしくない。
そして、もしもそのような
結果、ロードラント軍は敵と戦わずして自滅だ。
――そんな最悪の展開を避けるためには、いったいどうすればよいのか?
やはり、ここはいったんアリスは軍の後方に下がってもらい、そこでほとぼりが冷めるのを待った方がいいかもしれない。
しんがりをつとめるマティアス、それにエリックとトマスなら、きっと他の兵士たちを抑え、アリスを守ってくれるだろう。
あとは、前に立ちはだかるセフィーゼとヘクターをどうするか、だが――
セフィーゼに関しては、僕が白魔法を駆使し何とかねじ伏せてみせる。
が、一方のヘクターは明らかに戦士タイプ。
僕が正面切って戦うのは無謀すぎるので、ここは老将とはいえかなり強いらしいレーモンに頼るしかない。
セフィーゼとヘクターさえ降参すれば、ロードラント軍の兵士たちもそれ以上バカな考えを起こさなくなるだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
よし、この作戦ならば、アリスを説得できる!
そう思って僕はアリスに声をかけた。
「アリス様、ここはいったん後方に下がって……」
しかし、そこまで言いかけて、僕は言葉に詰まってしまった。
アリスの態度が、あまりに落ち着き払っているからだ。
敵ではなく味方に殺されるかもしれないのに、この度胸はすごい。
いや、それとも――
たとえどんな状況であってもアリスは、兵士たちが自分を裏切るはずがないと信じているのだろうか?
「ん? なんだ、ユウト」
アリスはそう言って、首を回したり、腕や足を延ばしたりとストレッチを始めた。
「い、いえ……なんでもありません」
どっちにしろ、セフィーゼとやり合う気満々のこの人が、僕の言うことなど聞き入れるはずもない。
「変なやつだな」
アリスは首をかしげた。
「まあいい。で、ユウトに頼みたいのは、あのセフィーゼの風の魔法のことなんだが――ユウトの魔法でなんとか防げるかか?」
「……はい、たぶんいけます」
アリスの期待にはできれば応えたい。
けれど、実を言えば、相手が相手だけに絶対の自信があるわけではないのだ。
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