(2)

 アリスの言う通り、地面に散らばる死体の先に一人の少女が立っていた。


 年齢はアリスやリナよりだいぶ幼い。せいぜい十二、三歳だろうか。

 短めに切ったボーイッシュな茶髪に、エメラルド色の瞳。

 フリルの服に皮の胸当てを身に付け、武器は何も持っていない。

 戦場とはおよそ場違いな、おとぎ話の妖精に似た、とび切り可愛い女の子だ。


 そしてその横にはもう一人、背が高く長髪の精悍せいかんな顔つきの男がいた。

 東洋風のずいぶん立派な鎧を装備しているから、かなり高い位なのだろう。 

 男は、三日月の刃がついた薙刀のような武器――いわゆる青竜偃月刀せいりゅうえんげつとうを手にし、こちらを睨み付けている。


 後方に控えているイーザの騎兵隊は別として、眼の前の敵はたった二人――

 これだけ多くのロードラント兵が、この少女と男によって殺されたというのか?

 

「アハハ、ほーんと、情けない」

 少女は無邪気に笑った。

「これがあの噂に名高いロードラントの竜騎士なわけ? 口ほどにもない連中ね。さ、次は誰?」


「貴様――!! なめるな!!」


 その言葉に激昂げきこうした一人の竜騎士が剣を抜き、一直線に馬を走らせた。

 馬上から少女を一刀両断にしようというのだ。


 しかし少女は、

「懲りないんだねえ」

 と言って、手で空を切って叫んだ。


『エアブレード!!』


 次の瞬間、少女の手の先から虹色に光る風が発生し、風は「ヒュンッ」という鼓膜をつん裂くような音を立て竜騎士の方へ飛んでいく。


 あまりの速さに、一瞬何が起ったか理解できなかった。

 竜騎士は無傷のまま、少女に突っ込んでいくかのように見えたのだ。


 ところが次の瞬間――


 竜騎士は馬もろとも上下真っ二つ、きれいに割れてしまった。

 そして、その分断された肉体は「ドサリ」と音を立て、地面にくずれ落ちた。


 間違いない。

 あれは風の攻撃魔法『エアブレード』だ。


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