(13)

 ハイオークの鬼のような顔に「?」と、戸惑いの表情が浮んだ。

 まさか人間相手に、力で負けるなんて思ってもみなかったのだろう。

 が、いま戦斧を放さなければ、ハイオークはこのままマティアスの方へ引きずられていくだけだ。


「お前たち、行け!」

 マティアスが鎖を引いたまま、必死に叫ぶ。


 それは見事な連携プレイだった。

 残った竜騎士たちが一斉に馬を走らせハイオークに近づき、あらかじめ用意してあった投げ縄を投げつけのだ。


 これは不利――と見たのか、ハイオークは戦斧を捨て後ろに身を引き縄を避けようとした。

 だが竜騎士の動きの方が若干速く、7、8本の縄が、ハイオークの体にうまく絡みついた。

 続けて竜騎士が力の限りその縄を引っ張ると、ハイオークは体をぐらつかせ、ドスンと片ひざをついた。


「やった!」


 僕は思わず叫んだ。

 これではさすがのハイオークも身動きがとれない。

 接近して、エリックを『リープ』で飛ばすことなどワケないだろう。


 リナも同じように思ったのか、

「エリックさん、今がチャンスです!」 

 と言って、手綱つかみ馬を走らせようとした。


 が、エリックは、それを大声で止めた。


「まだだ! まだ早い!」


「え、どうして――?」


 と、その時、竜騎士の一人が長槍を持って、ハイオークに単騎で突っ込んでいった。

 僕たちと同じように、今こそハイオークを倒すチャンスと思ったのだ。


「バカなっ。やめろ!!」 

 エリックが叫ぶ。


 その声が聞こえたのか聞こえなかったのか――

 竜騎士はハイオークの正面に飛び込むと、その顔面目がけ、あらんかぎりの力で長槍を突き通した。

 狙いは正確、槍の穂先はハイオークの顔のど真ん中を直撃した。


 ところが――


 スピアはいきなりぐにゃり、と大きく折れ曲がってしまった。

 ハイオークは瞬時にあごを引いて、固いひたいで槍を受け止めたらしい。


 無敵か、この化け物は!


 曲がったスピアを持った竜騎士はぼう然として、もうどうすることもできない。

 そしてハイオークが一歩、ズドンと足を踏み出した。


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