(10)

 ハイオークは間髪入れず戦斧を持ち上げ、今度は水平にぎ払う。

 竜騎士二人がこれを避けようとしたが、間に合わなかった。


 一人は戦斧の巨大な刃によって胴体を真っ二つに切断され、もう一人は数メートル吹っ飛び固い地面に叩き付けられた。

 それきり体はピクリとも動かない。


「引け!」


 マティアスが生き残った竜騎士一人に向かって叫ぶ。

 が、その竜騎士は命令されるまでもなく、ハイオークに背を向け走り出していた。


 竜騎士とハイオークとの距離がかなり開き、よかった、なんとか逃げられた。

 と、思った瞬間――


 ハイオークが突然、戦斧をぐるりと振り回し高速一回転させた。

 すると驚いたことに、刃の反対側に付いている鉄球がすごい勢いで飛び出し、竜騎士の背中を直撃した。


 竜騎士は「ぐうっ」と悶え、その場にくずれ落ちた。

 鎧ごと体を骨まで打ち砕かれてしまったのだ。 


 どうやら戦斧の柄の中には細い鎖が隠されていて、それが鉄球と繋がっていたらしい。 

 鉄球は、普通の人間なら絶対に飛ばすことのできない重量があるはずだが、ハイオークの怪力がそれを可能にしたというわけだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 歴戦のつわものがこうも簡単にやられるとは……。


 瞬く間に四人の竜騎士を失った僕たちは、ハイオークのあまりの強さにしばしあ然となっていた。

 誰ひとりその場から動けない。

 声すら上げることができない。 


 ハイオークはその間に、鎖をたぐり寄せゆうゆうと鉄球を回収してしまった。そして、今までとちょっと違う声で短く吠えた。

 周囲のコボルト兵がそれ答えるように雄叫びを上げる。


 さらにもう一度、ハイオークが吠えると――

 コボルト兵軍団が竜騎士団に、一斉に襲い掛かってきた。 


 ……まずい。

 これはとてつもなくまずい流れだ。


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