(21)

「――にしてもちょっと暴れすぎたぜ。休憩休憩」

 エリックはそんな僕の気持ちなどつゆ知らず、ふうっと息をついてその場に座り込んだ。


「敵、オオすぎるヨ……」

 トマスも巨体をぐったりさせている。

 こん棒を振りまわし続け、かなり疲れがたまったようだ。


 そんな二人にアリスが

「お前たちの働き、まことに見事だったぞ」

 と、ねぎらいの言葉をかける。


「これはアリス様、もったいないお言葉」 

 エリックはパッと立ち上がり、大仰おおぎょうにお辞儀をして言った。


「しかしこのままではマズいですね。みんなよく戦ってくれていますが、それも限度があります」


 アリスはエリックの言葉にうなずいた。

 防戦一方ではみんな消耗するばかり――そのことは誰もが分かっていた。


「レーモン、よい考えはないか」

 と、アリスが話を振る。


「……やはりここは」

 レーモンは数秒考え、答えた。

「陣形を崩してでも、すべての兵力を一点に集中させ包囲を突破するのがよいかと」


 さっきと同じことを、より大規模にやるということか。

 確かにコボルト兵の強さを考えると成功しそうな気もした。

 が、上手くいかなければ、一巻の終わりの特攻作戦でもある。


 ところが――


「レーモン様、それはお止めになった方が賢明ですぜ」

 エリックがきっぱりと言った。

「同じ失敗を繰り返して今度こそ全員あの世逝きになりますよ」


「なんだと!? なぜそう言い切れる?」


「えー、あのですね、コボルト兵はレーモン様が今まで戦ってきた相手とはわけが違う、人外の化け物なんです。奴らは死の恐怖なんてまったく感じません。だから殺しても殺しても平気で突っ込んでくるんです。そんな化け物数千に取り囲まれて、本当に強行強硬できるとお思いですか?」


「き、貴様、ただの兵士の分際でわかったような口をきおって!」


 エリックの率直な発言が、レーモンの怒りの導火線に火を付けた。

 そもそも、ただでさえプライドの高い竜騎士の、さらにそのトップにいるレーモンが、単なる一兵士の意見など聞くわけないのだ。


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