(20)

「お前たち、何を争っている!」 

 騒ぎに気づいたアリスが、こちらにやって来た。

「敵を前にしてどういうつもりか!」


「アリス様、これには理由が……」

 と、レーモンが弁解する。


「言い訳は無用だ! この状況を見ればだいたいの事情は分かる。――レーモン、今はお前が悪い。ユウトとリナに明らかに分がある。よいか? レーモン。騎士と兵士、身分の違いはあっても同じ王国の干城かんじょうということをこれから先決して忘れるな!」


「……申し訳ありません」

 レーモンはアリスにこうべを垂れた。自分に非があると認めたのだ。


 兵士たちも、アリスの裁定にすっかり納得したように黙ってうなずき合っている。

 王女とはいえ若く経験も乏しいアリスは、今まで何かにつけ軽く見られがちな部分もあった。

 が、ここにきて一気に株が上がった感じだ。


「ユウト、すまなかった。いいから治療を再開してくれ。すべてお前にまかせるから」


「ありがとうございます!」


 アリスに認められたことがうれしくて、僕はつい大きな声を出した。

 瞬間、アリスの青い瞳と目線が合う。

 お互いの顔にふっと笑みが浮かぶ。


 こんなにも殺伐とした空間なのに、いや、こんな空間だからこそ、僕とアリスの心はほんの少し通じ合ったような気がした。


 しかし、そのちょっと良い雰囲気は――


「おいおい、今さら仲間割れかよ! 勘弁してくれ!」

 という、戦場から戻ってきたエリックのゲッソリした声で、瞬時に壊れてしまった。


 正直、少し残念……。


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