(18)

 そんなアリスに一瞬見とれていると、リナがほほ笑んで言った。


「本当のことを言うと、実は戦いの指示はレーモンおじ様が出して、アリス様はそれをそのまま伝えているだけなんです。――でも、この状況でみんなが希望を捨てないで戦えるのは、アリス様の存在があってこそですよね」


 アリスのカリスマ性が成せるわざなのか?

 確かにレーモンの指揮は的確だろうけれど、普段は貴族面きぞくづらしているし、兵士たちに人望はなさそうだ。


「それじゃ、私は戻りますね」


 空になった水筒を僕から受け取ると、リナはアリスの元へ戻っていった。

 兵士たちの間にやけに大きな歓声が上がったのは、そのすぐ後のことだ。


「あの大男すげえな。すげー怪力だぞ」


「あっちで戦ってる奴も強ええ。あいつなんて名前なんだ」


 もしかして――!


 僕はみんなが注目している、円陣の西側を見た。

 思った通り、エリックにトマスだ。


 トマスは、長さ四メートルの巨大なこん棒をぐるぐると振り回して、押し寄せてくるコボルト兵をまとめて叩き潰している。

 一方、エリックは超人的な剣さばきで、戦場を機敏に移動しながら、コボルト兵を次々切り殺していく。  


 一騎当千、それが×2。


 まるでLV100のキャラがLV1の相手に無双している感じで、エリックとトマスの周りに、たちまちコボルト兵たちの死骸の山が築かれていく。

 うすうす感じてはいたけれど、あの二人、やっぱりただ者ではない。


「いいぞ、敵の包囲が崩れてきた!! 竜騎士は西に回れ! 兵力を一点に集中させろ!」

 アリスが叫ぶ。 


 エリックとトマスに続けとばかりに、防戦一方だったアリス護衛軍が攻勢に出た。

 防御陣形を保ったまま、竜騎士と兵士たちがコボルト兵の包囲の一角を切り崩しにかかったのだ。

 コボルト兵は数だけは多いが、単体では決して強くはない。統率も取れていないからわりとスキだらけだ。


 一点集中の反撃作戦が功を奏し、ついに包囲の一部にほころびが出た。

 ここを突破口にして突撃すれば――


 と、思ったのも束の間。

 どこからか新手あらてのコボルト兵が現れ、その穴を塞いでしまった。


 これではいくら戦ってもきりがない。


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