(17)

 エリックとトマスを見送りながら、内心では後ろめたさを感じながらも、僕は傷ついた兵士たちの治療を再開した。


「ユウト。すげえな、あっという間に治っちまった」

「ありがとうユウト、本当に助かった」


 治癒魔法をかけ終えるたびに、みんな本当に喜んでくれる。

 僕が戦闘に参加しないことを責める人は誰もいない。


 今はこれでいいのだろうか?

 そう思いながらひたすら魔法を唱え続ける。

 ただ無心に、一人でも多くの人を助けるつもりで――


「ユウトさん、顔が青いですよ。少し休んでください」


 リナだ。

 エリックとトマスに続き、僕を気遣って、アリスのそばを離れ様子を見に来てくれたらしい。


「ありがとうございます。でも大丈夫です。みんなが戦ってくれているのに一人で休むわけにはいきません」


 リナは貴族の娘で僕は単なる兵士。

 身分の差は天と地ほどあるのに、そんなこと気にもしないで接してくれる。


 いや、僕に対してだけじゃない。

 リナは兵士たちみんなに分け隔てなくやさしい。まったく偉ぶらないのだ。

 それはたぶん、この異世界では珍しいことだ。


「無理してはだめ。さあ、これを飲んで下さい」

 と言って、リナは水筒を差し出した。


 確かにこのままだと、自分もシスターマリアのようになってしまうかもしれない。

 そう思って、僕は魔法を使うのをいったん止めた。

 額の汗をぬぐい、水筒の水を一気に飲み干す。


 冷たくてとてもおいしかった。 

 たったこれだけのことで、体力気力がずいぶん回復した気がした。


「ありがとうございます、リナ様。なんだか生き返った気分です」


「よかった。ユウトさん、ちょっと向うを見てください、アリス様も頑張られていますから」


 リナの言うとおり、アリスは自分の白馬に騎乗して兵士たちを懸命に指揮している。


「弓兵よ前へ――陣の西側に攻撃を集中させろ!! 距離をよく測れよ。それと南側! 陣形が崩れているぞ。竜騎士はそちらに向かって援護しろ。負傷者は無理せず陣の中央へ!」


 その姿は、二千の兵を束ねる指揮官としてなかなか堂に入っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る