(8)

 しかし弱った。

 どうやってアリスを説得し、このピンチを切り抜ける?


 ――と、途方に暮れていると、背後から声が聞こえた。


「おお! アリス様、よくぞご無事で。――ユウト、お前もケガはないか?」


 振り向くと、エリックとリナがこちらに向かって駆けてくるのが見えた。

 僕たちのことを心配して戻ってきてくれたらしい。


 だがアリスはいささか驚いたように、 

「お前たち、なぜ帰ってきた? 輜重しちょう部隊はどうしたのだ?」

 と、訊いた。


「ご安心ください。輜重しちょう部隊もアリス様のご友人もご無事です」

 エリックは息を切らしながら報告した。

「馬車は街道を抜けコノート城に向けて走っています。一応トマスに途中まで護衛させますが、まず大丈夫でしょう」


「アリス様、ティルファさんもだいぶ落ち着かれましたよ。そばでシスターマリアが付きっきりに看ていてくれてますから安心です」

 と、リナが続けて言った。


「エリックもリナも本当にご苦労だった。だが、二人とも、ここに戻って来いと命令した覚えはないが……」


 アリスの顔が曇る。

 アリスとしては、せめてリナだけでも先に逃げてほしかったのだろう。


「いいえ、アリス様を置いて一人で行くわけには絶対にいきません」

 リナはとんでもない、という風に首を振った。

「それに失礼ながら、私は命令によってではなく、アリス様の友人としてここに戻ってまいったのです」


「……リナ。――ありがとう」


 感激で胸が熱くなったのか、アリスはもうそれ以上何も言わなかった。


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