(3)

 ――その時、耳に付けたヘッドセットから、セリカのけたたましい声が聞こえた。


「バカ! 『ガード』よ!『ガード』魔法を使いなさい!!」


 ああ、そういえば『ガード』の魔法なんてのがあったっけ。

 だけど、使ったこともない魔法をいきなり唱えるなんて器用なマネ、僕にはできなかった。


 本当にもうダメだ。

 後は全身にブスブス矢が刺さって、ハリネズミのようになって死ぬのを待つだけ――


 と、半ば覚悟を決めた僕の前に突如現れたのは、“小さな山”だった。

 その山は「ふんっ」と気合を入れると、僕を覆いかぶさるように立った。

 直後、無数の矢が辺り一面に降り注ぐ。


「トマスさん!!」


 山に見えたのはトマスだった。

 自らを盾にして、僕を矢の雨から守ってくれたのだ。


「ユウト、助けに来たぜ! 戦場慣れしてないお前じゃ、この状況はちょっときつかろうと思ってな」

 その後ろには、エリックの頼もしい姿もある。


「エリック!!」


「どうやら無事のようだな。よかったぜ、ユウト」


 エリックは矢の雨の中をくぐり抜けてきたというのに、まったくの無傷だった。

 が、トマスは僕を守るためかなりのダメージを受けたはずだ。

 早く魔法で回復してあげなければ――


「トマスさん、矢は――傷は大丈夫ですか? あれ?」


 驚いた。 

 見たところ、トマスの体には傷一つなかったからだ。


「これぐらいならダイジョウブ」

 トマスはニッコリと笑う。 


「さっき言っただろ。こいつは常人より体が頑丈にできてるんだって。だからあんまり気にすることはねえよ」

 と、エリックが事もなげに言った。


「さっきのオレイ……」

 トマスが恥ずかしそうに頭をかく。


「お礼?」


 礼を言われるようなことは何もしていないのに――


「だから昼飯のベーコンのことだよ。そのお礼がしたかったんだってさ」

 エリックが笑って言った。


 思い出した。

 お昼の時、食べ残しのベーコンをトマスにあげたんだっけ。

 でも、たったそれだけのことで命を張って助けてくれるとは、ずいぶん義理堅い人だ。


 そう思ってジーンとしていると――


「また矢が来ます!」

 リナが叫んだ。


「おい、トマス、頼むぜ」

 エリックが空を見上げ、叫んだ。


 トマスがうなずき、気合を入れ巨体を揺らす。

 すると、見事に何十本もの矢が、トマスの体に跳ね返って地面にバラバラ落ちた。


 この人は――

 と、僕はあることに気が付いた。

 

 ゲームに例えれば、トマスはまるで『タンク』の役割。

 盾役であるタンクが敵の攻撃を防ぎ、ヒーラーがその後ろでパーティのHPを回復する――

 オンラインRPGの職業ジョブそのものなのだ。


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