第17話 ダハンダハン
フィリピンの地方都市での一般的な乗り物で一番多いのがトライシクルだ。バイクの横に乗客用のサイドカーを付けたもの。
面白い事に、街によってデザインが違う。パラワン(プエルトプリンセサ)ではバイクとサイドカーは一つの屋根で覆われており、サイドカーには基本的に4人が乗れる。
他の島(街に)行くとサイドカー部分だけが別の屋根であったり、2人しかサイドカーに乗れなかったりする。
ミンダナオ島のカガヤンデオロでは、サイドカーではなく、バイクで引っ張る形のリアカーで乗客が6人乗れるようになっていた。
去年の11月にトライシクルを買ってしまった。雨の日でも濡れることなく買い物や遊びに行けると思ったのだ。
ホンダの店でTMX 125α(アルファ)という、トライシクルの為に有るようなバイクを買って、近所のトライシクル屋に持ち込んだ。
セッティングを頼んで、塗料を買いに行く。プエルトプリンセサの事業用のトライシクルは青か白だ。1日毎に営業していい色が代わる。今日は青の日で次の日は白の日という具合だ。
ウチのは自家用なので何色でも構わない。「ヤンキー」では無いがパープル(ムラサキ色)にした。買った塗料をトライシクル屋に持って帰り、塗装を頼む。翌日には出来ると言われた。
翌日
朝食を食べ終わってトライシクルを取りに行く。パープルに塗られたトライシクルが人目を惹いている。
一回りして出来上がりを確認し、バイクに跨がりエンジンを掛け、走り出す。
10年ほど前にパラワンに遊びに来た時、知り合いのトライシクルを借りて走り回り、面白い乗り物だと思っていた。あの時は男二人で走り回り、道路沿いに可愛い女の子がトライシクルを待って立っていると
「どこまで?」
と聞いて、無料で送ってあげ、電話番号を聞いたりしていた。
自分のトライシクルとして、運転しながら冷静に見る。
バイク自体はサイドカーが無ければ2ndギアで発進して丁度いいほどにローギアードになっているので、クラッチ操作に難しさは無い。
風を受けるバイクの気持ち良さと違う、風を巻き込む気持ち良さがある。直射日光にさらされないので、走っていれば涼しい。
ブレーキを掛けるとトライシクルは左に行こうとする。サイドカー側の車輪にはブレーキが無いので仕方ない。
カーブでは、左カーブではアクセルを閉じて、多少でもエンジンブレーキか効いている状態だと自然と曲がっていく。右カーブではアクセルを開けている状態だと素直に曲がる。
昔、日本で乗ったBMWのサイドカーと同じ感覚だ。サイドカー側に曲がる時にはアクセルを開けて、バイク側へは閉じて。
しかし、致命的なのはサイドカー側の車輪にブレーキが無いことだ。高級バイクに付けるサイドカーの様にFRPで軽量化なんて考えられていない鉄の塊なので、緊急時に止まれない。
試したところ、サイドカーに乗客無しで、40キロの走行状態で停止するまでに20メートルを必要とする。それでも運転手にしてみればパニックブレーキだ。左に行こうとするトライシクルに対抗して右にハンドルを当てながら、前後のブレーキを目一杯に掛ける。
これで乗客が二人も乗っていたらサイドカー側がくるりと前に出てしまい横転は避けられないだろう。
トライシクルの事故が多い訳だ。
ハイウェイと呼ばれている表通りでも40キロ。裏通りでは30キロが私のトライシクルの制限速度となった。
雨が避けられればいいと自分を納得させた。
翌日、食料の買い出しにスーパーマーケットに出掛けた。バイクと違い荷物を山ほど積める。
スーパーでカートに山ほどの買い物をし、帰り際にハイウェイ沿いのフルーツスタンドでスイカ・パイナップル・バナナを買う。
バナナを選んでいる時に雲行きが怪しくなってきた。
「バイクじゃないし大丈夫」
買った果物を積んで走り出す。同時に大粒の雨が落ちてくる。
「濡れないもんね。屋根があるし」
走り出してすぐに強風。大粒の雨が横殴りに私の顔を叩いた。
3分後にはびしょ濡れ。
トライシクルにはワイパーも付いていないので、前がよく見えない・・時速10キロ。
家に着く頃には「水も滴るいい男」
結局、我が家のトライシクルは10ヶ月後に人手に渡って行ったのでした。
フィリピンの地方に行くと、トライシクルに乗るしか選択の余地が無い場合が多い。トライシクルドライバーは怖いもの知らずが多いのです。
平気でスロットル全開で走る。危ないと思ったら事故を起こす前に運転手に言いましょう。
「ダハンダハン」(ゆっくり走って)
飛ばすのが、かっこいいと思っている奴も多いのです。
自分の身を守るために
「ダハンダハン」
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