第67話 魔法は固めて、物理で投げろ
「『空間掌握』は形無きモノを掴む為の技術なの。例えば水や炎ね。あと、砂なんかも一塊にして掴む事も可能らしいわ。もちろん魔力が作用する命無きモノしか掴めないって条件はあるわよ。そして本来の使い方は飛んできた魔法を掴んで投げ返す、ね」
「魔法を投げ返す……ですか」
「そうよ。魔法を掴むタイミングは煌式戦闘術極意『響』を併用すると本能的に分かるから安心して」
俺が一番聞きたいのはソコじゃない。
「何故、間違った使い方を?」
「別に間違った使い方じゃないわ。よく考えてみてソラ君。獣人は私みたいな猫又種の様な特殊な種族を除いて魔法が得意じゃないのよ?」
獣人は基本的に魔法が不得手。
ここ虎人族の郷ドールフトラッヘンは猫系獣人がほとんどで、マチヨさんの口振りから察するに魔法を使える人が少ないのだろう。
「って、マシブさん結構魔法使ってません!?
あとネコナ母さんも遮音結界を使ってたような」
「ネコナのは魔導具よ。マシブの場合は運動場下の魔法陣や黒土の仕込みに腕輪で補助をしているから例外よ、例外」
例外が身近過ぎないか。
「そうなると、魔法を使ってくる相手が少ない?」
「そうよ。だったら使う機会の少ない使い方よりも使う機会の多い使い方を……って、『空間掌握』にソラ君は自力で辿り着かなかったかしら?」
「あ、確かに」
一度無意識で使って、再現するのに助言は貰ったが自力で編み出した。死を回避する為に。
色々と鍛えられてはいたが感覚的な実感が無い頃だったので本気で死ぬかもしれないと勘違いして、死に物狂いで煌式戦闘術の四極意と空間掌握を習得した気がする。
「使い方の練習しようが無いから教えても無駄だと思ってたのよ」
「なるほど」
「それにソラ君は『響』を日常的にも使ってる段階だ。魔法を使う相手に追い込まれれば本能的に思い付く可能性も高いから教えなくても大丈夫かなって思ったところもあるよ」
マシブさんからの追加情報。
意味がよく分からない。
「えっと鏡は……家の中か。少し待ってて」
「あ、手鏡で良ければ持ってるっすよ?」
「ありがとう、助かるよ」
マシブさんはマゴノから手鏡を受け取り、鏡に俺の顔を映す。何を見ろと?
「ソラ君、自分の瞳の奥を良く見てごらん」
俺の眼、極僅かに茶色が混じる黒い瞳に特別変な所は見受けられない。
鏡に眼を近づけ、自分の瞳を良く観察する。
あった、これか。
瞳の奥に薄っすら金色に煌めく灯火、命力の光が見えた。
「煌式戦闘術極意『響』を無意識レベルで常時展開している証拠だよ。信頼に値するほどの生存力から『
煌式戦闘術の誕生に異世界転生者が関わっているのは間違いなさそうだ。異世界転生は一体どれほど前からあったのだろう。
「煌式戦闘術ってどれだけ前からあるんですか?」
「少なくとも三百年以上は前だって聞いているよ」
時間が合わない。
いや、そうでもないか。
異世界転生では時間軸の同期はされてこなかったと【次回予告】で得た情報にあった。
下手したら俺よりも未来から転生した人が過去にいたかもしれない。
「一体、ソラは何を目指してるんすか……」
「何って、一般冒険者レベルのはずだけど」
「あー……うん、そういう事にしとくっす」
マゴノは俺の返事を聞いた後、マシブ夫妻の顔を見て諦めた様に呟いた。
それより一つ思い付いた事がある。
『空間掌握』で火が掴めるなら
魔力を手裏剣状に練り、点火魔法を発動。
手裏剣状に並ぶガスコンロの火ができた。
……なんか思ってたのと違う。
手裏剣状に並ぶ火へ『空間掌握』を使うと、火は一塊になり手裏剣型の炎へと変化した。
「って、熱!!」
熱くて持てず、火が消える。
「ソラ君、『空間掌握』をしながら投げるか魔力を手に纏わせてないと危ないわよ?」
「早く言ってください」
気を取り直して手に魔力を纏い、手裏剣型の炎を投げる。魔力の糸を繋げた状態にして。
投げた瞬間は風を受けてか火の勢いが増したが、的まで残り半分辺りに届く頃には消えそうなまでに弱っていった。
「ソラ君! 魔力を継ぎ足して!」
「っ! はい!」
繋げた魔力糸を経由して火に魔力を注ぐ。
注いだ魔力に比例して手裏剣の炎は大きくなる。
最終的に三倍の大きさに達した手裏剣型の炎は的に命中すると消滅した。
「ソラ、魔法までお父さんの真似しなくても……」
「あら、マシブの真似だけじゃないわよ? ウナ」
「え?」
「魔力糸で軌道を操れるから私の真似だって入っているわよ。それにウナも魔法は冷気以外はマシブと同じ様に投げてるじゃない」
「それは……そうだけど」
そうなんだ。
魔法は固めて物理で投げる。
うん。
「「魔法使いっぽくない」」
「あはは、二人して僕の魔法の使い方をそう思うんだね。でも仕方ないんだ。一から十まで魔法でやるより魔法で投擲物を形成し、その後を筋肉に任せた方が精度も威力も上がるからね。僕の場合」
「魔法と筋肉のハイブリッドってやつっすね」
「いや、どっちかって言うと筋肉式魔法運用術じゃないか?」
「ソラ君のはハイブリッドでマシブのが筋肉式ね」
「じゃあ、ウナちゃんは筋肉式だね」
「き、筋肉式……」
ティアナの一言で地に膝をつくウナ。
地味にショックだったらしい。
「私、凍式抜刀術より魔法に力を入れて鍛錬する」
「したところで投げた方が強いわよ。ウナの場合」
「そ、そんな〜」
腕まで地につけ、ウナは蹲る。
相当悔しいらしい。
「あの、ウナって……」
「そうよ、私よりマシブの血が濃く出てるのか魔法の遠隔攻撃はサッパリなの。周囲に何本もの氷刀を浮かべて闘うのに憧れてるんだけど、今のとこ一本も浮かんだ事は無いわ」
氷を浮かべる、か。
掌の上に魔法で水球を生成する。
水なら浮かべられるんだよな……魔力喰うけど。
この状態でウナに凍らせてもらうと俺との
なら、自力で凍らせられたら?
浮かぶ水球の温度を下げる。
あ、これ地味に魔力喰うな。
冷蔵庫で冷やした水くらいまでしか水温は下がらなかった。イメージが足りない。
氷、凍る……凍る瞬間。
冷凍庫の早回し映像? なんか違う。
液体窒素は、多分魔力が絶対的に足りない。
何か瞬時に凍るモノ。
そういえば科学番組を見て家で実験したアレは何だったかな。注いだ水が凍るヤツ。
「あ、過冷却水」
「「「「「?」」」」」
家でやって何故か怒られた実験を思い出しながら水球が冷えるイメージをして魔力を注ぐ。
さっきより魔力消費が激しい。
それはつまり、さっきよりも冷えていると同義。
浮かぶ水球に『空間掌握』を掛けて優しく的へと投げる。
大きく放物線を描き、的へと水球は着弾。
軽くて硬い物が割れる様な音を立てながら水球は弾け、その弾けた状態で凍りついていく。
見ていた五人は全員が驚いてる。
過冷却水を見た事が無かったようだ。
って、あれ? 別に投げる必要なかったな。
もう一度水球を浮かべ、魔力を込めて冷やす。
そろそろ魔力切れだ。
水球を浮かべられている内に指で弾く。
今度は音もなく凍りつく水球。
氷球となった水球は依然として掌の上に浮かんでいる。
頑張れば浮かぶ氷刀もいけそ——無理っぽい。
掌の上からズレた氷球は地面に落ちて割れた。
原因は魔力切れもあるが、身体から離れた位置に浮かべるのにコツがいりそうだった。
ウナがキラキラと憧れを向ける眼差しでこちらを見ている。いや、浮かべるの失敗したからね?
襟首掴まれて揺さぶられるまで後三秒……かな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます