【次回予告】はチートスキルですか? いいえ、特にそんな事はなかったのでケモ耳美少女の嫁のご両親方に鍛えられてから異世界を廻る事になりました。 三界見聞録〜陸の書〜
第55話 爪を観察が目的だった……らしい
第55話 爪を観察が目的だった……らしい
異世界に召喚されて約二ヶ月。
ようやく戦う
文字通り命を削る魔法を併用した超高密度の筋力トレーニングで肉体を鍛え上げ、加速度的に難易度と危険度が上がっていく狩りごっこで身体の動かし方と命力の扱い方を習得。
そして今、次なる鍛錬として——
「形が違う! その形状じゃあ、いつまで経っても終わらないよ! ほらトーラちゃんのをよく見て」
——丸太で爪研ぎをしている。
勿論、爪が伸びてきたから猫の真似して爪を研いでいるわけではない。これは命力を武器として扱う為の鍛錬なのだ。
「伸ばした平爪型じゃなくて鉤爪型に集めた命力を形成するんだ。平爪型でも手刀みたく振れば削れるけど、これは命力を目的の形に操作する鍛錬だよ」
そう、今の俺の手は爪先から命力でできた光の爪が伸びている。生活点検とかにギリギリで通らない程度なので分かりにくいが。
マチヨさんの講義によると命力は魔力に比べ物理干渉する力が強いらしく、密度を上げると実体化し物に触れる事も可能になる。
ただし、実体化した命力の強度は命力の密度以外に自身の肉体との距離にも依存する点に注意が必要だそうだ。
「仕方ない、一旦中断だ。トーラちゃん、ちょっとこっちに来てくれるかな?」
「がう——にゃん!」
トーラは虎形態から猫形態へと変化して寄っ——
「へぶっ」
——飛びつき、俺の顔にへばりついた。
もふもふな感触は心地良いが、息ができない。
トーラの両脇に手を入れ、優しく顔から離す。
……まぁ、伸びるよな。猫? だし。
「トーラ、顔にくっつかれると息ができないから」
「うなぁ、うにゃにゃにゃ」
「いや、これは失敗」とでも言う様に前足で器用にトーラは頭をかく。
この子、たまに妙に人間くさい動きをするな。
「次からは息ができなくなる前に離れるんだぞ」
「うなぅ!」
「分かったって? トーラ、お前は可愛い上に頭もいいなぁ。よーしよしよしよしー」
抱っこし直して、顎やらお腹やらを撫で回す。
「あ、トーラばっかりずるい! ソラ、私も!」
「ティア……
でも、そうね私だけ仲間外れもアレよね」
近くで石柱を爪で切り刻んでいた二人がトーラを撫でているのを見つけて寄ってきた。
「頭を撫でろ」と言わんばかりに頭を撫でやすい高さへ下げながら。
「あ、うん。これで良い?」
「にへへ〜」「んふふ……んん、その調子よ」
トーラを頭の上に移し、二人の頭を撫でる。
掌で優しく包むように、時折指先で獣耳のを後ろを軽く刺激するように撫で続けていると二人の声が段々と緩んでいく感じがした辺りで止める。
「ソラは撫で上手〜」
「そうね〜もうちょっと撫でても良かったのに〜」
「そ、そんなにかい!? ソラ君……試しに僕の頭も撫でてくれないかい?」
マシヴさんがしゃがんでまで頭を差し出して来たので仕方がなく撫でる。
二人の時よりは軽く力を込めて、グリグリと押し込む感じで撫でていく。
「お、お〜なるほど。これは……中々、悪くない。むしろ、良い。力加減も……」
「マシヴまで何をやっているのよ……ソラ君、私も頼めるかしら?」
……貴方もですかマチヨさん。
マシヴさんの隣に、マシヴさんと同じ体勢で差し出された頭を撫でる。
手の腹がおでこに、指先が頭頂部の辺りに当たる位置で触れる程度の塩梅で左右に撫でてあげる。
「これは……良いわね。まさかソラ君にこんな才能があったなんてね」
「じゃあ、次は私もお願いするっす!」
マゴノ……また取材にきたのか?
皮鎧らしき冒険者装備なのを見るに、護衛終わりから直で来たようだが……仕方ない。
上から押さえつけるように、強引で荒っぽく髪がボサボサになるくらいの勢いで撫でてやる。
「ふぉお〜これは、この感じは懐かしいっす。私が小さい頃、父ちゃんの仕事終わりを玄関で出迎えた時と同じ撫で方……なんで知ってるっすか?」
「いや、知らねえよ! はい、終わり」
最後に額を押すように手を離すが、マゴノの体勢は少しも揺らぐ事はなかった。それどころか……。
「は!? 今ので思い付いたっす。頭を撫でて相手を骨抜きにする『撫でマスター』……路線はどっちが良いっすかね? ラブコメとバトルコメディ」
「何故、俺に聞く……どっちもやって読書の受けが良い方に舵を切れば?」
「それは……ありっすね。早速宿に戻って企画書を作って、爺ちゃんに送るっす。取材はまた今度に」
「あ、待ってマゴノ先生。撫でられる側はいろんな種族の人にしておかないとダメよ。漫画の影響で、獣人を撫でようする
「あ、じゃあ主人公の真似して吹っ飛ばされる役も出すっす。んじゃ、忘れない内に企画書を書きたいんで失礼するっすよ」
そう言ってマゴノは走り去って行った。
「で、何するんだっけ?」
「もう一回、私の頭を撫でる!」
「そうね、ティアと私の頭をもう一回撫でるのよ」
ティアナとウナ、二人の頭に手を置き撫でる。
今度は掌は円運動させつつ、全ての指先を別々に動かしマッサージをするように。
「さっきと撫で方が違う……」
「でも、これはこれで良いわよね。ティア?」
「そうだね〜ウナちゃん〜」
「これは順番待ちに並ぶしかないわね、マシヴ?」
「あ、ああ……って、違うよ!?」
マシヴさんの急な大声に手を二人の頭から離しかけるが、離れなかった。マシヴさんの方へ向けていた視線を二人に戻せば、二人の手が俺の手を掴み頭の上に固定しているのが目に映る。
……まだ撫でられ足りないと!?
なら、ここはどうかな?
「「ふにゃあ!?」」
獣耳の付け根辺りから揉むように撫でてやると、腰砕けになったみたく座り込んでしまった。
……しまった、やり過ぎたか?
「……夜の心配は要らなそうね?」
「マ、マチヨ!? 三人にはまだ早くないかい!?
って、そうじゃなくてソラ君。トーラちゃんの肉球を押してみるんだ。ソラ君なら嫌がらないはず」
頭の上のトーラを片手で抱き抱え、空いた方の手で肉球を押す。いや、こうじゃないな。
肉球のある足先を優しく握るようにしながら指先で肉球を揉んであげる。
「ふにゃぁぁ〜むにゃむにゃ……」
トーラは次第に目をトロンとさせていき、やがて眠ってしまった。
「ふふ、おやすみ。トーラ」
「いや……ちょっと待とうか、ソラ君? 君は今、何をやったのかな!?」
「何って、肉球マッサージですけど……」
肉体マッサージと聞いてマシヴさんは自分の両手を見つめ、考え込んでしまった。
他三人は自身の両手と俺の手を交互に見ている。
いやいや、肉球無いでしょ? 君達。
「うん……これは確かめないといけない事だ、仕方ないよね。ソラ君、僕にもお願いできるかな?」
「「「あ、ずるい!」」」
「肉球があるのは僕だけなんだから……」
「え!? マシヴさん、肉球あったんですか!?」
俺の記憶が正しければ無かったはずだけど。
「あぁ、それは……こういう。ことさ!」
マシヴさんがそう言った瞬間、筋骨隆々の右腕が黄と白の毛に覆われていく。掌には肉球が、指先には鋭い鉤爪が生える。
「部分獣化、獣化できる獣人の中でも限られた獣人にしかできない超高等技術よ」
そんな超高等技術を用いてまで肉体マッサージを受けたいのか……鍛えてもらっているし、お礼にもなるかと獣化した右手に肉球マッサージを施す。
張りがあって少し硬めだが弾力があり、しっとりとした質感の肉球を力を込めて両手で揉んでいく。
もうこれ、手のマッサージと変わらなくないか?
「なるほど……ありがとう、ソラ君」
張りが解け、柔らかさが増してきた辺りでマシヴさんの声がかかりマッサージを終了する。
触り心地の良い肉球に変わってきたのでもう少し続けたかったが仕方ない。頭の上で寝ていたトーラを再び抱き直し、肉球を堪能した。
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