第40話 旅の方法

 騎虎ライドラは二人までしか乗れない。

 トーラしかいない現状、騎虎に乗って旅ができるのはティアナと俺だけ。

 このままでは旅について行けないという事実に固まるウナ。相当ショックなようだ。


「歩いては無理なんですか?」


 助け舟になるか分からんが質問してみる。


「できなくはないよ。でも、三人での歩き旅は許可できないね。危険過ぎる」

「そうね、夜間に外で行動する事は極力避ける想定で鍛えてなんとか半年だから無理よ」


 実質歩き旅は不可能。ここが地球だったなら交通機関とか使えばいいだけの話だが……って、馬車か何かあるはずだ。


「そういえば筋肉芋達は筋肉都市とやらに何で行くんですか?」


「ああ、彼らは筋肉車きんにくぐるまで乗合獣車のある街か都まで行って乗合獣車を乗り換えしながらマスルツへ向かう予定だよ。マスルツから迎えに来る案内役と一緒にね」

「お父さん、筋肉車って荷車よね……」

「何を言っているんだいウナ、僕らが全力で引いても壊れない頑丈さと快適な乗り心地を持つ筋肉車は荷車というより獣車に近い代物だよ。まぁ、見た目は荷車に近いけど」


 乗る人全員が交代しながら全力で引く人力車、それが筋肉車らしい。そういえば昨日筋肉芋達が荷車に重り乗せて運動場を延々と走ってたな。

 ちなみに筋肉車は目的地で乗合獣車代に売り払われるそうで、頑丈さと乗り心地が保証された獣車の車体として高く売れるんだとか。

 

「この郷って乗合獣車は来ないんですか?」

「残念ながら来ないわよ。ここトラッヘンは街や都を結ぶ行路から離れてるから来るのは行商隊の獣車くらいよ」

「それに乗れたりは……」

「しないわね。人の輸送はやってないし、護衛も足りてるから行商隊を利用して旅なんて無理よ」

「仮に道中で護衛に欠員が出ていたとしても信頼のおける冒険者でないと雇ってもらえないからね」


 冒険者? 今、冒険者って言ったよな。


「あ、ソラ君。冒険者というのは依頼を受けて仕事をこなす何でも屋みたいなモノでね。冒険神の洗礼を受ければ誰でもなれるよ」

「あ! 私知ってる。洗礼を受けるとステータスが表示できるようになるんだよね! あれ? じゃあソラはもう冒険者?」

「え、ちょとティア。私それ聞いてない」


 そういやマシヴさん一家には見してなかったか。

 視線がこちらを向いたので表示して見せる。


 ソラ

 16歳

 スキル

 ・次回予告

 天恵

 ・モジヨムンの加護


 特に以前と変わりは無い。


「なるほど、タイガに聞いてた通りだね」

「そうね」

「え、二人とも知ってたの……」

「「言ってなかった?」」

「聞いてない!」

「まぁ、それはそれとして。良かったわねソラ君。

 洗礼を受ける前からステータスが表示できると洗礼を受けた時に新しいスキルを得られるわ」

「えーいいな〜ソラ」

「大丈夫よティアナちゃん、郷を出る前に二人にはステータスを表示できるように教えてあげるから」

「「本当!?」」「マチヨさん」「お母さん」


 新スキルか……【次回予告】より役に立つ物が手に入ればいいけど。聞いた感じだとランダム入手っぽいし、俺のガチャ運では期待できない。


「それで洗礼はどこで受けれるんですか?」

「あ、ソラ受けれないよ」「うん、受けれないわ」

「え、なんで」

「トラッヘンには冒険者組合が無いからね。半年後の楽しみにしておくといいよ。ソラ君」

「その前にウナを連れてミナウスに行く方法を考えないとダメよ。聞いてた感じだとエビ野郎はウナにも言い寄ってきそうだからウナも一緒に旅するのは決定事項よ」


 再びウナが固まっている。さっきまでとは逆の事を言われ……。


「別に旅について行かせないとは言ってない?」

「そうよ? どうやってついて行くのか聞いただけだもの。反対はしてないわよ」

「あ、ところでミナウスってのは?」

「当てもなく旅するのもアレだから最初の目的地だけこっちで決めておいたのよ」

「なるほど」

「なるほど、じゃ——ない!」


 ウナ、復活。そしてお茶を一気に呷り、湯呑みを机に叩きつけた。あの湯呑み丈夫。


「何か方法はないの?」

「トーラに獣車を引いてもらうとか」

「あまり重いのは無理よ」


 馬ほどの牽引力は無い上に持久力もないらしい。


「じゃあ、ソリは?」

「ジャンプしたりするけど大丈夫ウナ?」

「私どっかに飛んでくわよね、それ」


 犬ゾリならぬ虎ゾリもダメか。ソリに座ってる状態で跳ねられたら危ないわな。


「なら、よく滑る板か何かに立ったまま乗って引っ張ってもらうのは?」

「ソリよりはいけそうね」

「あ、それ楽しそう」「ちょっとティア!?」


 イメージ的には水上スキーかウェイクボードの陸上版。これなら飛んだら跳ねても……いや、危ないか? でも獣人の身体能力なら——あ、それだ! って顔してるから大丈夫っぽい。


「あ、でも素材はどうするつもり? 擦り減るから消耗品になるわよ」

「それなら俺が魔法で出した水を凍らせれば」

「それならいけそうね」


 最終的に俺の出した水を凍らせたて作った何かをトーラに引っ張ってもらうことに落ち着き、形状やらなんやらはこれから試行錯誤で決めていくになった。


「さて、そろそろ鍛錬に行こうかソラ君。せっかく早起きしたのに開始が遅れてしまったね。今日から重石の円環リング・ウエイトを装着してやろうか」


 黒い円環を腕と脚に装備して運動場へ向かう。

 体感的に一つ一キロはあるが歩いていく分には特に気にならない程度に筋肉がついてきたようだ。


 運動場に着くとマチヨさんが主従式強制鍛錬術マスタースレイブ・プログラムの準備を完了させ、全関節に浮かぶ魔法陣が身体の中に消える。


「さて、マシヴが動作確認をしている間にソラ君は水生成の魔法を使ってちょうだい。で、ほらウナはこっちに来なさい。ウナは出てくる水を片っ端から凍らせて形状を色々試しなさい」


 言われた通り水を出す。予備動作無しでの発動になる為、水が出るまで三秒かかった。

 ウナが水を凍らせているのを眺めていると、身体が後退してウナから離れる。

 しまった……拘束・傀儡魔法の解除に挑戦しとくんだった。慌てて魔力を練り操作を試みるが、もう遅い。

 筋トレが始まると三分もしない内に余裕は消し飛び、意識を保つので精一杯になる。

 前日より余裕が無くなるまでの時間が伸びた気もするが魔法の解除なんてやってられない。



 流し込まれる補給食と補給水が途中から雑になったと感じながらも延々と筋トレは続く。



 空が茜色に染まり今日の鍛錬が終わる。と、目の前には茶髪で眼鏡の女性が……。


「って、誰!?」


「おっと!? いきなり虚な目に光を戻さんで下さいよ。びっくりするじゃないっすかぁ〜。どうも、マゴノ・テンセイです! 漫画家やってます」


 フラグ回収早すぎない? 取材にくるかもって話してたの今朝だよ。


「あ〜と、確かホワイトライダーとやらの登場はまだ先だって……」

「あ〜、こりゃ話し聞いてたようで聞いてないっすね。登場直前の時期に取材しては遅いんすよ」


 言われてみればそうだけど、なんで俺に話しかけてきてんの? 違くない? ティアナは……いた、漫画読んでる。ウナと一緒に。


「それで、リアル・ホワイトライダーの旦那さんに話を聞きたいんすけど。いいっすかね」

「なんて?」

「いや、だからリアル・ホワイトライダーの……」

「トイレの後でも?」

「緊急っすか」

「活性鍛錬後なんで」

「じゃあトイレの前で待つっす」

「一時間も?」


 一時間と聞いてマゴノが悩んでいる間にジムの活性鍛錬者用トイレへ向かうが疲労で動けない。

 マチヨさんに目を向けると、手をかざして超活性ではなく活性の魔法をかけてくれた。

 おかげで自力で歩いて行けそうだ。

 ジムに入る直前でマゴノが追いつき、問い掛けてくる。


「そうだ! これを一応聞いておくっす。『あなたは日本から来た転生者ですか?』」

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