第35話 超活性、もう一つの代償

 キリが悪いからと更に一人前追加の十人前の食事をなんとか食べ切った。

 否、食べ切らされた。食事も鍛錬の内だと消化器系強化の魔法を付与され、逃げられないよう椅子に拘束魔法で固定されながらね。


 口を閉じてればよかったって?


 天真爛漫な美少女ティアナに屈託の無い笑顔で、外見だけはクール系の美少女ウナに照れた感じで「あーん」とかされては口を開けざるを得ないだろ。

 それに消化器系強化の魔法のおかげで体感的には三人前で済んだのも大きい。

 まぁそれでもかなりギリギリで、食べ切った後はしばらく動けなかった。





「さて、ソラ君! お風呂に行こうか」

「はい?」


 食休みの終わり、ようやく動けるくらいになった頃にマシヴさんに肩を叩かれた。否、掴まれた。


「そうだな! たまに男同士背中を流し合うのも悪くない、俺も付き合おう。ソラとはこともあるしな」


 反対側の肩をタイガさんに掴まれた。

 捕まった。逃げられない。

 そういえば、娘二人に「あーん」をされている時目の笑ってない笑顔でこっちを見てたな。

 その後、二人とも奥さんに「あーん」をされてたから大丈夫だと思ったんだがダメらしい。

 そのまま家を出てジムの大浴場の方へと連行されました。


「さてソラよ、お前さんのアレは硬くなるだけでなく膨らむと言っていたが本当に本当なのか?」


 脱衣所で服を脱いでいると身体の一部に集まる視線と共にタイガさんが尋ねてきた。

 もしかして……身の危険ですか。貞操の。


「本当ですけど……まさか見たいんですか?

 だとしたら一緒に入るの遠慮したいんですが」

「馬鹿者! そんなモノ見たくないわ!

 朝の事を思い出しただけだ」


「ははは、娘のいない所となるとタイガは相変わらずだね。しかしソラ君、今朝のことは聞いたよ?

 ウナに見せつけたんだってね?」


 目が笑ってない……。


「見せつけてませんから! 事故です。見られたんです。そんな趣味はないですから」


 正直、今ので少し縮み上がったぜ。どこがとは言わないが。

 二人とも俺より頭一つ分以上は背が高い上に筋骨隆々、おまけに全裸なので視覚的威圧感が半端ないので気圧されても仕方ないと思うんだ。本当に。

 背はタイガさんの方が少し高いけど体格はマシヴさんの方が段違いに上だった。筋肉がヤベェ。

 そして所々に残るギズ跡は二人が歴戦の戦士であり、大切な者達を守ってきた事を物語っている。


「ほらソラ君、ボーッとしてると風邪ひくよ」

「あ、はい」

「おおかたマシヴの筋肉に気圧されたんだろう」

「いえ、タイガさんにもです」

「お、そうか? 分かってるじゃねぇか、戦ったら俺の方が強えからな」

「待つんだタイガ、確かに攻撃や俊敏性は君の方が上かもしれないが防御力や耐久力は僕の方が上だ。

 戦っても決着はつかないから君の方が強いと言うのはおかしいんじゃないかな」

「何? いや、そうだな。そもそも俺達が戦う事はありえんからな。マシヴが守って、俺が攻める!

 ソラも変な事を言うんじゃないぞ、まったく」


 え、あれ? 俺が悪いの? 釈然としない思いをしながら浴場へと続く。

 タイル張りの床に身体を洗う流し場、大きい浴槽にサウナと小さな水風呂の浴槽もある。変わり種のお風呂の無い銭湯みたいだな。富士山のタイル絵があれば完璧だったが。


 まずは洗い場で汚れを落とさないと。

 蛇口の代わりに赤と青の石が埋め込まれた取手になっている以外は地球の銭湯のソレと変わらない。

 ちゃんと一席一席に鏡もある。

 二十席近くあるとどこのを使うか迷うな。


「へぇ、大浴場の入り方分かってるんとはね。

 おーいソラ君! こっちだよ!」


 マシヴさんの声がする方へ行くと、やたらノズルがゴツいシャワーがあった。

 蛇口代わりの部分もさっきの所のヤツとは違い、緑の石が追加された円盤状で使い方が直感的には分からない。


「これは活性鍛錬者用の浴室にあるシャワーと同じヤツでね、水圧の調整が可能なんだ。魔道具を使い慣れてないソラ君には使い方を教えておかないといけないね」


「もしかしてその為に大浴場に?」


「それもあるけど、下手をするとティアナちゃんがソラ君と一緒に入って背中流すって言い出す気がしてね。そうなるとウナも間違いなく巻き込まれて一緒にお風呂となるのは目に見えてるからだね」

「我が娘の事ながら否定できん」


 なん……だと、場合によっては美少女二人と一緒にお風呂なんて展開があったというのか! いかん保護者の前でソレを想像しては。


「ほう」「本当に膨らむんだね」


 慌てて隠すが、時既に遅し。想像に対しての反応が早過ぎる。


「若いな」「若いね」


 くっ、まさか若返った事による弊害か。

 たった五年なのに元気なアレが高反応の超元気なヤツになるとは……って、元気がなくなるよりかはしか。気を付けてればそう困らんよな。


「言っておくが」「言っておくけど」

「一緒にお風呂は認めんぞ」

「一緒にお風呂は認めないよ」


 父親二人の威圧を受けて元に戻りました。

 あ、でもリアルに考えるといきなり一緒にお風呂なんて無理な気がする。


「はい、その方が助かります。たぶん暴発して自分で自分にトラウマ刻みそうなんで……」


 そして、いざって時にトラウマと緊張で使い物にならなくなるとか嫌だしな。そんな状況になった事すらないけども。


「そ、そうか……」

「ごめんねソラ君、そこは筋肉じゃないから鍛えてあげられないよ」


「あ、いえ……だ大丈夫です。そ、そういうことは段々と順序踏んでけばなーって……」


 あれ? なんか余計な事言ったような。


「水圧最大でいいな」「そうだね」


 両手を掴まれ高圧の水流をくらう羽目になった。

 この魔道具は魔力を流すと円盤上に展開される魔法陣をダイアルのように回して操作できる。水圧を示す緑の魔法陣が最大になっていたが、水量水温が普通に合わされていたのは情けなんだろう。立っていられない水圧だったが。


「ひ、ひどい目にあった」


「あはは、でも水圧高めじゃないと垢を落としきれないから仕方ないんだよ。超活性の分、余計にね」

「まぁでも、黒ずんでたのが綺麗になるのは見ていて気持ちがいいな。ソラよ、今のでちゃんと垢は落とせているから安心するといい」


 高圧洗浄機で洗われる壁の気分だったけどね。

 座って洗う方の洗い場で鏡を見ると、確かに黒っぽかった皮膚が元の色に戻ってる。かなりの汚れが溜まってたんだな。


「後は普通に洗うだけだよ」

「え?」

「水圧で汚れを落としただけだからな、石鹸で綺麗にしんといかんぞ。それでソラよ、どっちに背中を流されたい」


 究極の二択を迫られた気分だった。

 荒っぽく洗いそうなタイガさんか、超パワーで洗ってきそうなマシヴさんか。

 正直どちらもハズレな気がしてならない。

 一体どっちを選べば……。


「面倒だ、一緒に流すか」「そうだね」


「はい? え、ちょっ待——」




 再び、ひどい目にあった。

 粗目のタオルで荒っぽく超パワーでゴシゴシと。

 背中がヒリヒリする……やり返したらぁぁ!



 タオルを小さめに畳んで圧力を一点に、そして全体重を掛けて擦り下ろす!



 ダメでした。

 心地良い力加減だと褒められたぜ、ちくしょう。

 でも、小さい頃爺ちゃんと一緒に風呂に入って背中を流してあげた事を思い出して少し楽しかった。


 後は泡だらけの背中を流すだけだが、このままでは終わらんよ……高圧シャワーをくらってる最中に思いついたコイツをくらうといい!


 腕を前に伸ばし、手を合わせる。

 ただし、合わせるのは指先の腹だけにして少し膨らんだ形に。

 できた隙間にお湯生成と風を送る魔法を発動。

 圧力を高め、中指と中指の先を僅かに開き噴射!


 手でやる水鉄砲くらいの勢いしか出ない?!


「お〜そこそこ〜、いい水圧加減じゃないか」

「あれ、こっちのは水圧調整できないはずだけど」


 こうなったら今日覚えたばかりの魔力操作で……あれ? これどういう流れになってるんだろう。

 ええい、とりあえず掌に!


「む、どうし……」「あれ? どうし……」


 二人が振り向いた瞬間だった。


「「「わぷっ!?」」」


 急激に集まった水塊が弾け飛んだ。

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