第15話 特典映像を最初には観ない派なんで

 好奇神キーナから字解神モジヨムンへ説明役がバトンタッチした。

 強制的に。

 こちらには聞こえない声に指摘されたのか、字解神は眼鏡に付いた札を慌てて剥がす。

 ほんのり頬を染めて咳払いを一つ。


「キーナ、うるさい。黙って。……黙れ」


 音声がカットされているキーナはモジヨムンをからかっていたようだ。まぁ……キレるよね。

 最後、ドスの効いた声だったな。


「はじめまして。私、字解神モジヨムン。

 異世界の文字、たくさん読める。召喚のおかげ。

 だから、加護付与した。でも、届くの一人。

 他、繋がらない。だから、たぶん届かない。

 加護定着、終わるのあとちょっと」


 俺たちが召喚されたおかげで地球の文字が読めるってことでいいのかな。その礼に加護をくれたと。

 加護の付与はすでに終わってるけど、たぶん俺が召喚後に目覚めて直ぐ『特典映像』観てる想定で話してるのだろう。


「私の加護、文字読める。今、使われてるのだけ。

 加護の発現。今、使われてないの読める。あと、誰でも読める文字書ける。

 発現には、対価要る。命力めいりょく、魔力、霊力のどれかたくさん。それか、混ぜたの。

 対価払う、たぶんしんどい。気をつけて」


 加護は文字が読めて、書ける。確認した通りだ。

 魔力以外でも使えるらしいが、霊力は想像がつくけど命力ってなんだ……タイガさんがそんなこと口にしてた気がする。後で聞こう。

 加護を使ってこっちの人が読める文字を書こうとするとしんどいらしい。書けるよう覚えようかな。


「ふぅ、そろそろ異世界の文字読みたい。キーナ、交代。でも、時間ないから手短に」


 そう言うと、モジヨムンは椅子を具現化して腰掛け本を開いた。

 本を読みながら指を鳴らすと、キーナが現れた。


「やっほー! キーナだよ! ここからは僕の番。

 一度ヨムンに代ったのは、ヨムンが異世界の文字が読めるのが嬉しくてその感謝を伝えたかったからだよ。凄いはしゃぎようだったからね。別神べつじんかと思うくらいでさ、『お礼しなきゃー!』ってかなり舞い上がって加護の付与するくら……って痛い、痛いから神器で叩かないでよ」


「余計なこと、言わない」


 あの本、神器だったのか。

 表紙、表紙、背表紙の三コンボだった。


「はいはい、わかりました。ちなみに僕を叩いた神器はね、君が元いた世界で言う……で言う……なんだっけ」


「携帯端末」


「そうそれ、携帯端末ってやつみたいに本のページに情報が映るんだ。ヨムンはそれで異世界の文字を読んでる。君らが召喚されたおかげで『インターネット』とやらに繋がるようになったらしいんだ」


 異世界からネットができるってIPアドレスとかどうしてんのかな。神パワーでなんとかなるのか。

 あれ? 待てよ、召喚対象を選ぶのにネットで異世界アンケートをしてたはず……だったよな。


「君らが召喚されたことで、君らの世界とこっちの世界の時間軸が同期したみたいでね。いや、違う。

 召喚されるちょっと前くらいから同期してたかもだった。うん、まぁそれはいいや。

 今、二つの世界は時間の流れが同じってこと。

 もし、戻りたいなら時間軸が同期してるうちじゃないと大変だよ?」


「キーナ、リミット言わないと」


 俺、もう戻る気無いからどうでもいいや。

 特に真新しい情報は無かったな、加護の使い方くらいか……使い方じゃなくて対価だった。


「そうだった。君らを召喚した存在はかなり丁寧な術式を編んだおかげで時間軸が同期したけど、邪神が十五〜三十年周期でやってる異世人の転生は雑なんだ。だから、次の転生が起こると時間軸の同期は切れる。リミットはそれまでだね」


「キーナ、それだと分からない。補足する。早くてあと五年くらい。……頑張って」


「あ! ヨムンがデレ……」


 キーナが喋り終わる前に映像は消えた。

 『特典映像』はこれで終わりらしい。

 このスキル……スクショ機能とか無いのか? 本で口元を隠して上目遣いのモジヨムン様、撮っときたかった。しかし、そんな機能は無かった。

 なんか最後にとんでもない情報落としてった気がするけど……エビ野郎の転生は邪神の仕業かよ。



「ソラ、見終わった?」


 スキルで表示していた画面を閉じると、目の前にティアナの顔があった。

 

「ああ、見終わったよ。ティアナ、課題は?」


「終わったよ! ほら!」


 ティアナは課題をやっていたノートを広げて見せてきた。

 ノートに鉛筆で書かれた文字……内容は、『生物の三要素』か。

 どれどれ……『生物は肉体、精神、魂魄の三要素こら構成される。各要素から発生られるエネルギーを(生命・精神・霊魂)エネルギーと言い、命力、魔力、霊力と称されることもある』と。

 タイムリーな情報をありがとう。それと……。


「ティアナ、急ぎ過ぎたのか所々誤字ってるぞ」

「え、うそ! 本当だ……ちょっと待ってて」


 ノートを確認したティアナは、すぐに机へ戻り誤字の修正を始めた。


「思ったより早く課題片付いたね、もっとかかるかと思ってたよ」


「だって溜めないように毎日やってたし、明後日までって勘違いしてなかったら昨日終わらせてたよ。

 締切最終日は見直しと復習の予定だったから」


 あらやだ、最終日前日にまとめてやる俺とは大違いじゃないか。

 言動から勝手にアホの子と思ってごめんなさい。

 とりあえず、心の中で謝っておこう。


「よーし終わり! さぁ、遊ぼう!」


 誤字の修正も早い……本当に優秀だなこの娘。

 そんなに俺と遊びたいのか、弟妹たちもこれくらい可愛げが有れば良かったのに。

 さて、問題が一つ。


「俺、基本独りだったから何して遊べばいいか分からん。何して遊ぶ? 騒がしいのはダメだぞ、怒られるかもしれないからな」


「……何しよう」


 ティアナも思いつかないようだ。

 何かないかと部屋を見渡す。

 昼の日差しは入って来ない窓。

 カーテンで隠れている壁。

 期待のこもった紫の瞳でこちらを見上げる虎猫トーラ

 虎猫トーラと目があった。いつからいたの……。


「なーう」

「あれ、トーラいたの? ブラッシングして欲しいのね、こっちに……」

「う〜、にゃ!」

「ソラにブラッシングして欲しいみたい」


 そう言ってティアナは俺にブラシを渡してくる。

 トーラが俺の膝元に飛び込んできた。

 戸惑っていると、尻尾で早くブラシをかけろと催促される。

 フッ、いいだろう。手加減しないぜ。


 左手で顎下を撫でつつ、右手でブラッシング。

 心地よいのか、お腹を向けて転がるトーラ。

 お腹を撫でる、と見せかけて前足肉球キャッチからの肉球マッサージを敢行。

 嫌がる前に肉球をリリース、お腹をわしゃわしゃと指を立て揉む。

 脇に指を入れて持ち上げから抱っこに移行。

 右腕でトーラの全身を支えるように抱っこしながら、左手で顎や頭を撫でる。

 鳴りっぱなしの喉が鎮まり、耳を澄ますと寝息が聞こえてきた。どうやらトーラは眠ったようだ。

 これ、実家の猫にやると途中で逃げられるんだけどな。


「いいな〜」

「抱っこ代わる?」

「え、そっちじゃない……」

「うん?」

「な、なんでもない。そ、そうだ! お話しよう、お話し。トーラ抱っこしたままでいいから」


 いかんいかん、ティアナ放ったらかしだった。

 トーラを抱っこした状態では遊べないので、お話しをしましょう。……何の?


「えっと、そうだ! 私たちが見れなかったのってどんなのだったの?」


 ……その後、俺たちは【次回予告】スキルで観える内容を話題に話し続けた。

 『海の書』、『空の書』に『特典映像』の話が終わると、もう一度『陸の書PV』が観たいと言うので【次回予告】スキルを発動した。

 ちなみに、邪神云々あたりの話はしなかった。

 女の子と二人っきりで話してるのに他の男を話題にするなんて馬鹿げてるからな。

 ちなみにカーテンで隠れているのは壁一面の本棚らしく、本の日焼け防止の為普段は閉めているとのこと。

 二人で『陸の書PV』を観ながら話をしていると、ネコナ母さんがやってきた。

 

「あら、楽しそうね。その様子だと課題はちゃんと終わらせたみたいね。それじゃあ、お楽しみのとこ悪いけどお昼の準備手伝ってちょうだい」


 もうそんな時間か、お昼ごはん楽しみだな。

 ティアナ、頑張って——


「手伝うのはソラ君、貴方よ?」


 ……はい?

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