第10話 帰還理由
どういう訳か禁忌呪文の名称をティアナが不用意に口にすると俺が死ぬらしい。理不尽……。
「しょうがないのよ、ソラ君。貴方、一般人と比べてもかなり脆弱だから……」
ぜ、脆弱なんて初めて言われた。一応、標準体型で痩せ型ではないんだけど……脆弱なのか。
最近運動不足気味なのに家系ラーメンにハマってて、お腹が少し気になってたけど……異世界召喚で若返った際の副次効果かお腹周りもスッキリしてたからたぶん体型的なことじゃないと思いたい。
家系ラーメン……異世界じゃ食えないよな、帰省して外食自粛してたから一月は食ってない……我慢せず食っとけばよかったな。
「故郷の食べ物に思いを馳せてるみたいだけど話の続きいいかしら?」
「なぜこのタイミングで食べ物……」
「あ、はい。大丈夫です。ところでラーメンってこっちにもあります?」
「ラーメンならあるわよ。
で、今のソラ君だと不用意に『
ラーメンあるんだ……。ラーメンあるのは嬉しいけど殺されんだ俺、八つ当たりで……八つ当たり?
あ、大して情報持って無いからか。
「な、なら、私がソラを守……」
「無理よ」
「む、無理じゃな……」
「無理よ、守るにしてもソラ君が弱過ぎるわ」
「あ、あの、俺魔法使えます!」
顔や手を洗うくらいしかやってないが、一応嘘は言ってない。弱い弱い言い過ぎだよ、まったく。
「魔法使えるの!? だって! お母さん」
「誤差よ、誤差。命の危機にティアナに見惚れてて動けないのよ、魔法が使えたところで無意味よ。
それに現状では魔法も大したことないわ、アナタからも言ってあげて」
「そうだな、俺の眼で見た限りソラの使える命力、魔力、霊力のどれも一般人の半分以下だ。下手をすると子供より弱いぞ」
子供以下……それなら弱過ぎると言われても仕方ないか。正直納得いかないが。
「あの程度の威圧で意識を失いそうだったわよね、あれ全開の威圧の一割にも満たないのよ。
もし威圧全開だったら意識が飛ぶどころか死んでてもおかしくないわね」
あ、あれで一割以下なのか。もし本当なら半開の威圧でも死ぬ気がするぞ。俺が弱いんじゃなくて、この人達が強過ぎるだけな気もするけど。
待てよ……俺よりとんでもなく強い人が警戒する相手となると、それ相応に強いよな。
異世界召喚ってチート貰って無双するもんじゃないの? 個人的には成り上がり系の方が好みだったけど、自分がするなら無双系が良かったよ……。
「うむ。ソラも納得してくれたようだし、そろそろ遮音結界を解いてもいいんじゃないか」
「いえ、もうちょっと張っておきましょ。
ソラ君、異世界から来たのは分かったわ。それで異世界召喚魔法の対象になった人はどうなったのかしら? 確か空に浮かぶ島に召喚されたのよね」
何故、空島に召喚された人のことを……そうだ、空島には異世界召喚の手掛かりある可能性が高いんだった。あれ? でもあの島って確か……。
「島ごと墜落してました。島を脱出する様子の映像は無かったんですが、たぶん無事に脱出してるはずだと思います」
「つ、墜落したの……島が……大変ね。ソラ君が元の世界へ帰る為の手掛かりは
空の底か……いや、空の底ってなんだよ。あの空の下は陸か海かすら分かってないのか。
「えー! ソラ、帰っちゃうの?」
「へ? いや、帰れない帰れない。もし帰ろうと思ったら、
改めて言葉にするとめちゃくちゃ大変そう……」
「軽く偉業を二つ以上成す必要があるな。
ソラでは弱過ぎて無理ではないか?」
そういえば極限域とか三幻地がどうのって言ってたな。それを越えるなり、見つけるなりすることが偉業にはなるってことか。
……弱い弱い言い過ぎじゃない? いい加減にしてくれないと俺、もっかい泣くぞ。
「アナタ……これからソラ君を男として見極めるにしても弱過ぎるって連呼し過ぎよ。彼のこれからを見極めないと、でしょ。
それとソラ君、空の底に降りること自体も偉業になるレベルだから」
あ、そうか
でも、偉業二つ成してようやくスタート地点とか難易度高過ぎ……。
「ねぇ、ソラって元の世界に帰りたいの?」
「あー、帰って卒研……卒業研究がやってみたい」
「それって何するの?」
「まだテーマ決まって無い」
「そうなんだ、偉業をいくつも成してでもやりたい卒研ってすごいことなんだね」
あれ? 確かに卒研やってみたくて大学まで進学したけど……偉業成してまでやりたいっけな。
よく考えると卒研する為には時間を巻き戻す類の魔法開発して空間を飛び越える必要があるぞ。
そうなるまでの能力を得たとして、それらの力の一切合切を捨ててまで帰りたい世界かな……。
あっちに大事な人なんてあんまり仲良くしてくれない家族に……あとは、中学の時に好きだったけど告白出来ずじまいだったあの子……は今はもうどうでもいいよ。
どうしよう、俺の帰りたい理由って凄く薄い。
「あれ? テーマの決まって無い研究……それってこの世界でもできないの? こっちで研究したいの決めて研究すればいいのに……」
確かに! 確かにそうだ! やってみたい研究も科学技術で魔法っぽいコトみたいな漠然としてたけど、こっちなら魔法そのものがあるじゃん。
「それだよ! ティアナ! ありがとう!」
俺は思わずティアナを抱きしめてしまった。両親の目の前なのを忘れて。仕方ない、それくらい感激した発想だったんだ。
元の世界、地球に帰る理由が消し飛んだからね。
「あ、あの、えっとその……ち、ちょっと……あぅあぅ……(急にそっちから来られると心の準備がぁぁぁ)……はわゎゎ、……よし! そりゃー!」
なんか慌てて小声でなにか言ったかと思ったら、抱きしめ返された。いや、勢いそのままに床に押し倒された。ぶつけた後頭部が地味に痛い……。
「あ、ごめん」
「いや、俺のほうこそ」
ティアナは直ぐに離れ、起き上がらせてくれた。
彼女に手を引かれながら椅子に座る。
「ふふ、若いっていいわねぇ〜」
「むぐぐ……ソラよ、今のは下心が無いようだったから見逃してやる……グルル……」
本当に見逃してくれてるか少し心配……。
そうだ、今決意したことを宣言しとこう。
「あ、あの! 俺、こっちの世界で生きていきたいです。えっと、その……よろしくお願いします!」
俺は立ち上がり、宣言をして頭を下げた。
「え、じゃあソラは帰らないんだね! やったぁ」
「うふふ、賑やかになるわね」
「覚悟を決めた眼……いいだろう、一応事故のこともあるし
「あ、ありがとうございます!」
再び頭を下げて礼を言った。三回くらい。
「さて、そうなるとこれ以上異世界のことを聞く必要は無いわね。ソラ君異世界のことだけど、これも禁忌呪文と同様に口にしないようにね。」
「そうだな、禁忌呪文を狙う連中ほどではないにしても今のソラには危険だな。ティアナも言うんじゃないぞ、いいな」
「言わないよ! ソラがいなくなったら嫌だもん」
「あはは、気をつけます」
返事をしながら腰を下ろした。話はこれで終わりかな。
「あ、そうそう。ソラ君、貴方の使える魔法見してもらえるかしら?」
「そうだ! ソラ魔法が使えるって言ってた。
見たい見たい」
「力量から見ても家の中で使っても大丈夫なレベルだろう。かまわん、見してくれ」
魔法を……見せる? あの手を洗って乾かすだけの魔法を?
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