第4話 事情説明? そんなの朝飯後だね!

 正直に話しても信じてもらえない。

 そう思って口に出さないつもりだった。

 

 まぁ、うん。口が滑った。

 だって和食だよ。和の朝食。

 白米に魚にみそ汁って我が家ではまずお目にかかれない朝食だよ。うちだとできて白米に昨夜の残りのみそ汁くらいだっての。むしろ用意されてないのが基本ですけど。


「あー、えっと、美味しそうな朝ごはんですね。

 いただきます」

「いただきます? あ! ごはんの挨拶なんだ。

 じゃあ私も、いっただっきまーす」

「ふふ、なら私もいただきます」

「ふむ、では俺もいただきます」


 なんとか誤魔化せただろうか、いや無理だな。

 気を遣って追求しないでいてくれているのだ。

 本当に良い人達なのかもしれない。娘のティアナは食欲がまさっただけの可能性もあるが。

 この人達なら正直に異世界から来たと話しても信じてくれる気がしてきた。話すべきか。

 いや、せっかく気を遣って聞かないでいてくれるのを無下にするのも……しかし……。

 うん、食ってからにしよう。俺も食欲に負けた。


 まずはみそ汁からかな。食事は汁物からって教わったし。

 色や香りからして使われているのは赤味噌、出汁はなんだろうか。飲めば分かるか。

 

 分からんかった。おそらく鰹節ではない、昆布でもない……異世界特有のものでもない気がする。

 どことなく懐かしい味がする。


 もう一口。

 今度は具も一緒に。


 大根にネギと……煮干し、干しキノコだな。

 そうか出汁は煮干しと干しキノコか。干しキノコはたぶん椎茸の類だろうけど、異世界の品種なのかよく分からない。噛むと出汁が滲み出てくる。

 豆腐が入ってないのが残念だけど、落ち着く味がする。思い出した、死んだ爺ちゃんの作るみそ汁がこんな味だった。こっちのが美味いけどな。

 

 みそ汁を飲むとご飯が欲しくなる。

 炊き立てのごはんの香り、ふっくらと炊き上げて米粒を立たせた艶やかな白米。

 見ただけで分かる、美味い。

 箸でご飯をつまみ、口に放り込む。

 みそ汁の塩気により、ほのかな甘味が引き立てられ噛み締めるほどに米の甘味を感じられる。

 個人的にはもう少し粘りのある方が好みではあるが、おかずを引き立てつつもじっくりと味わえば米本来の味を主張するこの米も悪くない。いや、最高の部類と言える。異世界に和食や箸があることなどどうでもよくなってくる。後で品種聞いとこう。

 死んだ爺ちゃんが作ってた米もこんな感じだったかな……『ウイシモ』だか『せきにしき』とかって名前だっけ、この米より米粒が大きかったな……。



 さて、鮭と金平きんぴらのどちらから食うべきか……。

 楽しみを後にとっておく派なので金平からいただこう。

 ゴボウに人参、それに大根の皮を甘辛く仕上げ、シャキシャキの食感を残した一品だった。

 昔、給食で出た時は苦手だったのに……箸が進むのはなぜだろう。

 美味い。

 米と一緒に食べる。

 尚美味い

 口内に残った余韻をみそ汁で流す。

 箸が止まらない。

 金平、ご飯、みそ汁、ご飯、金平、ご飯、みそ汁と無心で食べ続ける。


「お魚食べないの? 食べないならちょうだい!」


 魚? うぉっと! 忘れてた。

 お楽しみはこれからだった。


「あ、待って、食べる! 食べるから! 

 一番美味しそうだったからとっといたんだ」

「なぁんだー、残念……」

「ちょっとティアナ、私のを半分……の半分わけてあげるから、空太郎君のを貰おうとしないの」

「わーい! お母さんありがとー」


 危なかった。

 危うく持ってかれるとこだった。

 この魚、鮭でいいんだろうか。見た目も匂いも鮭の塩焼きだが異世界だしな……。

 ただ一つ言えるのはこの一家全員の好物らしい。

 つまり、味に大いに期待できる。


 皮までカリッと仕上げ、香ばしい匂いを漂わせて食欲をそそる焼き魚。もう何の魚かなんてどうでもいい。気づいた時にはすでに口に運んでいた。

 表面はパリッと、それでいて中はふっくらとした口当たりに、適度な塩により引き出された魚の旨味が広がる。小さい頃これが食卓に並んでいたのなら魚嫌いになることはなかったと断言できる。

 克服したとはいえ、好んで魚料理を献立に加えることはなかったがこれは別だ。週三はいける。

 皮はザクザクとして、なんだろう……脂の甘味が少し滲みて食が進む。

 そうかポワレだ。この焼き魚、ポワレで調理されている。漫画とアニメで見て、調べて挑戦を断念してよく知らんがこんな感じだった気がする。

 朝から手の込んだ料理だ。

 おかわりが無いのも、残念だがうなずける。


「お味噌汁とご飯ならおかわりあるわよ」


「「「おかわり!」」」


 ほぼ反射で答えていた。だって美味いんだもん。




 至福の時を終え、入れてもらったお茶を啜る。

 当然の如く緑茶だった。

 食べ終えた食器の片付けられ、みんな湯呑みを持って席についている。

 無論、片付けは手伝いましたよ。

 みんなで一息ついてます。


「朝ごはん、本っ当に美味しかったです。

 ごちそうさまでした」

 

「ごちそうさま? 分かった! これもご飯の挨拶なんでしょ? 私も、ごちそうさまでした!」

「あら、ありがとう。私もごちそうさまでした」

「うむ、俺もごちそうさまでした」


 料理を作った人も「ごちそうさま」言うのはどうなんだろう、まぁいいか。後で訂正しとこう。

 しかしティアナが隣にいて、その両親から「ごちそうさま」って言われるのはなんか別の意味に聞こえるな。



 片付けを手伝いながら確認したが、三人とも頭についているケモ耳は虎耳だった。黒のメッシュが入った金髪も全員同じだ。ティアナは金から白、紫へグラデーションしているが。もみあげは三人とも黒く、遠目で見ると黒い牙の様になっている。

 親子だけでなく、夫婦間でも似ているのは種族的な特徴なのかもしれない。

 タイガさんもネコナ母さんも和装の部屋着が良く似合っている。ティアナも俺のパジャマ着てなかったら和装なんだろうか。見てみたい。



「今日の朝ごはんも美味しかったー。ところで、『異世界』って何だったの? やっぱり聞かないでいた方がいい?」


 ティアナも気を遣って食事中は聞かないでいてくれたようだ。この娘も良い人だった。

 この一家なら信じてくれるかもしれない、仮に信じてくれなくても変人扱いはしない気がする。

 腹をくくるべきだな。

 この機会を逃すと、異世界のことを話せる相手が現れるまでどれだけかかるか分からない。

 

「話すと長くな……らないんですけど」

「ならないの?」「ならないのね」「ならんのか」

「目が覚めたらあの草原に立っていて、色々試した結果、スキルのおかげでここが異世界だと分かったんです。そのスキルがこれなんですけど」


 プロフィールを表示と意識して画面を呼び出し、スキル【次回予告】を選び表示する。


「お母さん、なんか見える?」

「見えないわね」

「見えんが、あー、そうか」


 俺以外にはプロフィールも【次回予告】も見えないようだ。どうしたものか……。


「おい、くうたろうよ、俺たちに見せるよう意識してもう一度だ。このように、ステータス!」


//

 タイガ

 年齢非公開

 族長 ドールフトラッヘン

 ライセンス

 ・騎虎騎乗者トライダー特級

 ・煌式戦闘術 皆伝

 ・猫系獣人流武術 皆伝

 ・その他

//


 あれ、なんか俺のと違う……。しかもステータスって言った。プロフィールで出てきたのに……。

 もしかして、意識の問題なのか?

 でも……またステータスって言って失敗しても嫌だから俺流で、この一家に見せる意識をして。


「いきます! プロフィール」


///

 里神 空太郎 〈変更可〉

 16歳

 スキル

 ・次回予告

 天恵

 ・モジヨムンの加護

///


「わぁ! 見えた! い〜な〜、私まだ出せないんだよね〜」

「見えたわね。って、あら? これは……」

「え、ぷ、ぷろふ……? ああ、自己流か?

 ふむ、見えたが……」


 よし、見えたようだ。

 大人二人の反応が気になるが、【次回予告】を選ん……なんか増えてない?

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