第2話 やらかしたのは誰だ
さて、どうしたものか。
これってプロポーズしたことになるのか……。
お互い名前も知らないのに。
とりあえず、ここはテンパる彼女を眺めているのが正解かな。親二人も微笑ましいものを見る目で娘を見ているし。
「なぅなぅ」
「あぅあぅ、えっと、彼が旦那様? きゃっ!」
おう、目が合った。
少女はすぐに両手で顔を隠してしまった。
顔真っ赤だったな。
なぜか着ている俺のパジャマがでかいのか、萌え袖になってるせいで顔が完全に隠れて見えない。
まぁ、ピコピコ動く虎耳は丸見えだが。
このまま眺めているのもいいかもしれない。
「うにゃう」
「うにゃぁ、目が合っちゃった。うぅ、ドキドキする。深呼吸深呼吸、すー、はー、すーー、ぁ、この匂いやっぱ落ち着く」
猫……虎だっけ? 確かトーラって名前の小さい虎も飼い主と同じ様に両前足を顔に当て首を振っている。俺は今どうしてスマホを持ってないんだ……動画に納めたいぞ、ちくしょう。
しかし深呼吸じゃなくて俺のパジャマの匂い嗅いでないか? 少し恥ずかしいからやめてほしい。
「うなぁ〜」
「ふんふん、落ち着く〜。ふわぁ〜おやすみ〜」
え、なに俺の匂いってそんな落ち着くの? 嘘でしょ。寝ちゃったよ、この娘。
猫……虎……ってめんどくさいな、小さい時は猫でいいか。猫も飼い主も丸くなって寝てしまった。
「って、寝んなよ」
「「にゃ!」」
危ねぇ、話が進まなくなるとこだった……。
あれ、寝かしといた方が話が進む気もするな。
あ、猫よ、何処へ行くんだ。あー行っちゃった。
起きた猫は別の部屋へ行ってしまった。朝ごはんかな。何かを食べる音も聞こえてきたし。
「あ、お父さんお腹すいた」
君も朝ごはんですか……。
親父さんはやれやれって顔してる。
母親の方は……っていねぇ、何処行ったんだ。
猫の餌やりに行ったのかもしれない。
「あー、彼のことはいいのかい?」
「彼?」
二人して俺を見る。
まさか……もう俺の事忘れてご飯の事考えてたんじゃないだろうな。
「あー、えっと、そうだ! 私が引っ掛けてきた男の子だ」
おい、本当に忘れてやがった……。
反論しとくか。
「どっちかって言うと轢かれた気がするんだが」
「えー、でもぶつかる直前、口説いてきたよね」
「いやいやいや、まてまて、何のことだ」
「ぶつかる直前だっていうのに、私と目を合わせながら私のこと綺麗って」
「はぁ!? 俺そんなこと……」
言った。言った気がする。正確には綺麗な瞳って言おうとして、途中で言葉が途切れてそう聞こえてしまったのか。
「なんだと! 自分の身より娘を口説く事を選んだのか……。この少年、俺より愛に生きてやがる」
あの、避けらんなかっただけなんですけど……。
親父さんは「だがそれしきの事で娘を〜」とかなんとかブツブツ言い始めて考え込むし、少女はキラキラした目で俺を見つめてくるし、どうしたらいいんだよ。話が進まねぇ……。
「あら一体どういう状況かしら? ちょっと席を外した隙に何があったのよ」
救世主現る。いや、帰還か。
いつの間にか母親が戻ってきた。
「は! もう戻ったのか、早かったな。で、どうだった?」
「あ! お母さん、おはよう。朝ごはん何?」
「はい、おはよう。ちょっと待ってね。
アナタ、そう焦らないの。ゲンさんが家の前まで来てくれてたからすぐに確認は取れたわ。えっと君……」
こちらを見て言い淀み、親父さんと母親は顔を合わせ首を傾げる。どうしたのだろう。
何かに気づいた顔をして尋ねてくる。
「まだ名前を聞いていなかったわね」
「あ、はい。
しまった、「名前を尋ねる時はまずは自分から」って言ってみたかったのに……。
「はいはい! 私、ティアナ」
「ティアナの父だ。タイガと呼んでくれ」
「ティアナの母よ。ネコナ母さんって呼んでもらおうかしら」
ようやく自己紹介だよ。
「君がティアナで、タイガさんにネコナ母さんですね。改めまして、空太郎です。えっと、よろしく」
「クータロー?」
「ふむ、食うたろう?」
「アナタ、食うたろうじゃなくて空太郎よ」
こっちだとあまり聞かない響きの名前なのかもしれないな。この様子だと。
「じゃあ空太郎君? 今確認してきたんだけど、この陸の世界『
救世主ではなかった。
しかし、なんと返答したものか。
陸海空それぞれの世界か……自衛隊かっての。
日本は島国だから、海でいいのか? いや異世界から来たと正直に話すべきか……。
「あの日本列島って知りませんか?」
知るわけないだろうけど。
やっぱり正直に話す気にはならない。
信じてもらえないだろうから。
「聞き覚えは無いわね、島ってことは海か空の出身かしら。まさか! 極限域を越える方法が見つかったとしたら大変よ!」
「まて、三幻地を通ったのかもしれんぞ!」
「三幻地が見つかったとしても大事件よ!」
ヤバイ、なんか話が
「あの……どちらでもないです」
「それはどっちのことかしら? 海と空? 極限域と三幻地? 両方?」
「そんな三幻地発見のロマンが……」
「ちょっとアナタ、ロマンはどうだっていいわよ」
「両方……です……」
話が変な方向に膨らみそうだったから、思わず否定してしまった。嘘をついておけば誤魔化せただろうか。いや、あの紅と蒼のオッドアイに睨まれたら簡単に白状してしまいそうだ。
ちなみにタイガさんは左が紅、右が蒼、ネコナ母さんは左が蒼、右が紅のオッドアイだ。
「両方……ね。それなら一体何処から来たのか聞きたいけど、言いたくないって顔ね。いえ、言っても信じてもらえない……かしら?」
そんなに顔に出ていただろうか、それとも心を読めるのか。
「心は読めないわよ」
は? いや、読んでんじゃねぇか。
「あー、母さんには隠し事が通じないんだよな。何度サプライズに失敗したことか……」
「そうそう、お母さんに嘘ついてもすぐバレちゃうもん。なんで?」
「アナタ達は分かり易すぎるのよ……。それに、表情や仕草を見れば分かるでしょ」
この人、天然のメンタリストみたいだな。どう誤魔化したものか。
「まぁいいわ、お腹も空いてきたし次の質問をしましょうか」
「ふむ、なぜ寝る時の服と言ったパッジャ〜マで平原にいたかだな」
「パッジャ〜マも気になるけど違うわ」
「ねぇ、お母さん朝ごはんってな〜に? あとパッジャ〜マって何?」
「ティアナ、朝ごはんが早く食べたかったら少し黙っていてちょうだい。あと、パッジャ〜マは今貴方が着ているソレよ」
「は〜い。へーこれパッジャ〜マって言うんだ」
なんか『パッジャ〜マ』で定着しそうだな。訂正しとこうかな。
「すいません、正確な発音はパジャマで大丈夫ですんで」
「「「そうなの?」」」
なんだろう……今日一の食いつきな気がする。
そんなにパジャマが気になるのか。これは彼らを
「パジャマの事は後でじっくり聞くとして、今聞きたいのは草原で何をしたかよ」
「なるほど、そっちか。確かにトーラが暴走する原因になるような事をしてないか確認をしないとな」
「あ、確かにトーラの暴走って珍しかったから慌てちゃったんだよね」
まさか、暴走の原因が俺に有ると言いたいのか?
こちとら被害者だぞ。特に変わった事なんでしてないはずだ、毅然として対応してやる。
「空太郎君、そこまで身構えなくても大丈夫よ。貴方は被害者なのだし、原因がどうあれしばらく面倒は見るから安心して」
「そうだな。娘のしでかした事だ、親の私達がしっかり責任は取る。それに、暴走の原因なんて常識的にするような事ではないしな」
「そうね、人はマーキングなんてまずしないもの」
「おまけにマーキングした所へ魔法で水かけて、縄張りを広域に主張したりとか俺でもしない」
原因はマーキングに魔法で水か。
はは、動物じゃあるまいしマーキングなんてしないっての。冗談きつい……ぜ……。
動物のマーキング……って、尿……か……。
魔法で水出して手洗ったな……。
用を足した所の上で……。
顔に手を当て、天井を見上げ。
ベットに突き刺さるように深々と頭を下げた。
俺がやらかしました。
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