ex 認識の外側
時刻は僅かに遡る。
(……さて、ここからどう動くか)
シオン・クロウリーとの戦いで勝利を納めたランディーは、既に倒した相手から、これからの事に対して意識を切り替える。
この研究所内に侵入したのは精霊を含めて3人。
内一人、シオン・クロウリーを殺害した今、やるべき事は一体なんなのだろうか。
殺人の隠蔽は必要無い。自分が隠すような事でもない。
ルミアからの指示による殺人で、隠蔽工作も彼女なら容易に可能だろう。
……そう、隠蔽工作。
堂々とした行為ではない。
おそらく本質を辿れば、この殺人に正統性など何もない。
シオン・クロウリーの言う通り、末端の研究員がルミアの手により殺害されているのだとすれば、彼女の人間性は破綻していて。
そんな人間の行動に正当性などあってたまるか。
おそらく……シオン・クロウリーは何も悪くなくて。
精霊に対する価値観など狂った所はあるにしても、倫理観が狂っているという事は無かった。
……とはいえ、もうどうでもいい。
本質的な話、自分もルミアと同じような人間なのだろう。
倫理観に歪が生じている。
人の命よりも、探求心の方が大切で。知的好奇心の方が大切で。
殺人を行っても。その裏で糸を引く人間に目を瞑っても。
自身の知的好奇心が満たせれば、もうそれでいい。
だからもう目の前の遺体の事はどうでもよくて。
それ以外のやるべき事を考えよう。
「まあ何するにしても、コイツをどうにかしねえとな」
視線をシオンから外して金髪の精霊へと。
シオン・クロウリーの契約精霊だった精霊に視線を向ける。
まずはこの精霊を檻に戻す。
連れて動く訳にもいかない以上、まず優先すべきなのはそれだろうか?
(……しかしなんでコイツ、脱走できてんだ?)
自力で抜け出したとは考えにくい。
だとすればあと二人いる襲撃者の仕業か、それとも自身が捕らえてきた禍々しい雰囲気を纏う精霊が何かをしたか。
いずれにせよ、この精霊をそこまで運ぶ。
とにかくまずはそれから。
……そういう風に思考と視線はもうシオン・クロウリーには向けられず。
故に起きる筈の無い認識の外側からの奇襲に対して、完全に無防備な姿を晒した。
音も気配も刻印も。有るべき物は何もなく。
視界の端。
そこに居る筈の無いシオン・クロウリーがそこに居た。
「……ッ!?」
そしている筈の無いシオンに混乱する意識を持っていかれた瞬間、更に別の角度から何かの精霊術が金髪の精霊を抱える腕に着弾する。
「が、あぁッ!?」
意識を向けていればかわせたかもしれない。精霊を盾にできたかもしれない。
そんな一撃が着弾した腕には激痛が走り、思わず金髪の精霊を離してしまう。
その瞬間には、刻印の刻まれていないシオンの手が。拳底が迫り……そして。
「が……ッ!?」
腹部に拳底が叩きつけられた瞬間炸裂する。
相手を勢い良く弾き飛ばす精霊術が。
今のシオンに放てる筈の無い一撃が。
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