80 抉られる傷
「……もしかして反応無い感じ見ると図星な感じかな?」
返す言葉が無い俺に対して、ルミアは申し訳なさそうな雰囲気で。
そういう風に見える雰囲気で言ってくる。
「……ごめん。こういう時は何かフォローするような言葉を掛けるべきなんだろうけど……正直予想以上にキミが無能すぎて何も思い付かないや。いや、なんかこう……予想以上だよ。仮にもキミはここ最近の精霊柄みの大事件の中心人物なんだからさ。まさかこんなにどうしようもない奴とは思わないじゃん」
「……ッ」
煽られながら、罵られながら。
必死にそれらの言葉に乗せられないように踏み止まり、なんとか思考回路を回していく。
一体ここからどうすればいいのかという、答えが存在するのかどうかも分からない問いに対しての解を作る為に。
だけど見つからない。何も見えてこない。
……それでもなにか、打開策を。
「あ、無能って言えばキミに一つ聞いておきたかった事があったんだ」
……耳を貸すな。
向こうが適当にこっちを煽っている間はそれだけ考える時間がこっちに与えられる。
それに何かの拍子で俺程度でも突く事ができる隙が生まれるかもしれない。
だからとにか集中しろ。
とにかく――
「キミさ、精霊加工工場をテロった後でさ、精霊数人引き連れて捕獲業者とドンパチやってたんでしょ? ……無能なキミに着いていったその時の精霊達ってさ、まだちゃんと元気してる?」
「……ッ!?」
思考が霧散した。
声にならないような声が搾り出てきた。
その言葉が耳に届いた瞬間、色々な事がフラッシュバックしてきて、なりふり構わずその場で蹲りそうになって、必死に支えようとする手足が尋常では無い程に震えだす。
それを見て……ルミアは楽しそうに笑みを浮かべていた。
「うわ、適当に言ったら大当たりな奴だね。って事は碌でもない事があったんだ。キミが無能なせいで……キミのせいでその子達は死んじゃったんだね。可哀想に」
とにかく、その口を塞ぎたかった。
「それで今度はエルちゃんもなんだからさ……あーうん、本当に泣けてきちゃうね」
その口を塞ぎたかった。
だから自然と振るった。
震えと吐き気を必死に抑えながら、風を纏わせた刀を振るった。
無我夢中で、斬撃を打ち放った。
放った斬撃は一直線にルミアに向けて飛んでいく。
そして次の瞬間轟音が鳴り響いた。
壁にまでは到達していない。
音の発生源はもっと手前。
そして……人を切断したのであれば、きっとそんな音は発生しない。
「来世の教訓にしておくといいよ、テロリスト君」
一歩も動かず変わらずに、そこにはルミア・マルティネスがいた。
「本当に追い詰められた時、無我夢中に出せる最大火力の一撃をぶつけてくるってのは良くある話だと思うんだけどさ」
まるで指先一つで斬撃を止めたとでも言いたいように、こちらに人指し指を向けた。
「通用しなかった時、心折れちゃう原因にもなるからさ……止めた方がいいよ? そういうの」
無傷の化物がそこにいた。
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