ex 出来レースを始めよう
「うーん。まあ超えてくるとは思ったけど、なんかまあ斜め上な感じで来たね。物理的にもだけどさ」
研究所内の一室で、放った追っ手を掻い潜られたルミア・マルティネスはどこか機嫌が良さそうにそう言った。
どうやらシオン御一行は空から高速でこちらに攻めてきたらしい。
いくら向かわせた人間に高出力を叩き出せる霊装を持たせていたとしても、これでは対応できない。
例えば向かったのが自分の様な人間でないのなら。
「しっかしほんと、もう良いかなって殺そうとしてもなんやかんや生き残るんだからさ……ほんと面白いなシオン君は。からかう対象としてはほんと興味深いよ」
そう言ってルミアは笑った後、まだ直接顔も合わせた事の無い人間へ意識を向けて言う。
「キミはどうかな? テロリスト君……いや、エイジ君、だったっけ?」
一体どういう経緯があったのかは分からないが、シオンと件のテロリストが共に行動している。
エルという精霊が此処に来るまでの経緯を考えると、おそらく合流したのはグラン達を向かわせる直前といった所だろうか。元より共に行動していた訳ではなさそうだ。
そして本来致命傷を与えた筈のシオンが生きているのも彼らが手を施したおかげなのだろう。
半月程前、自分が殺す一歩手前でカイルに救出された時の様に。
だがシオンの戦いに参戦しなかったカイルと違い、今度シオンを救出したエイジはこの場に乗り込んできた。
当然といえば当然だ。ただの真人間のカイルとは違う。
精霊の為にテロ活動を行う狂人で、自身の契約精霊が捕まっている。遅かれ早かれ単身でも乗り込んできただろう。
彼との邂逅もまた、ルミアにとっては楽しみの一つだ。
「キミも私の良いおもちゃになってくれるかな? なってくれるといいなー。まあするけど」
そう言ってルミアは手にした霊装を起動する。
槍の霊装。
半月前にシオンと戦った際に作ったプロトタイプはとっくの昔に破棄して、新たに作った最新型。
先のシオンが単身で現れた戦いでは霊装を使う前に他の研究者達がシオンを敗走に追い込んだので使う事は無かったが、今度は使う機会があるだろうか?
(ま、あの三人を突破してきた時点で結構な割合で使う様な状況になると思うけど……というかするけど。これは私が楽しむ為の出来レースな訳だし)
そう心中で言ったルミアは部屋を出る。
準備をする。これから楽しむ為の準備を。
とりあえず末端の研究員に、捕えた彼らの契約精霊を連れてくるように指示をした。後は自分が盤面をコントロールする為に色々とやる事をやる。
「……さてさて、王子様は無事捕らわれのお姫様を助け出す事が出来るでしょうか……なーんて、これじゃ私が悪者みたいだ」
そう言ってルミアはニコリと笑う。
「この世界じゃ私が絶対的に正しくて、シオン君もエイジ君も極悪非道なクソ野郎なんだけどね」
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