52 必殺の一撃

「……アイツらか」


「そ。見事に全員あの武器を持ってる。さっさと決めて全力で逃げないとこっちが一網打尽ね」


 軽い打ち合わせをしながら進んでいた俺達は向こうの連中を目視できる地点にまで辿り着いた。


 白衣の男が三人。連れているドール化した精霊はいない。だけど全員があの武器を持っている。

 ……これから俺達はあの連中の元に飛び込む。


「どいつを狙う? アンタが決めて」


「……正直向こうの連中が使える精霊術が分からないからな」


 だけどそれでも、判断基準が何も無いわけでは無い。


「ぱっと見の武器の印象で決めるぞ」


「了解」


 持っている武器の形状。


 向こうの武器はロングソード。三節棍。ガンドレット。

 この先不意討ち成功後に真正面からぶつかる事を考えると、切断能力を持っている可能性が高いロングソードは潰しておきたい。

 だったらそれで……決まりだ。


「レベッカ。ロングソードだ。あの白衣グラサンのロングソードを叩き潰す」


「分かったわ。じゃあウチが合図したら飛び込んで。隙を作るのと残り二人の足止めはウチがするから」


「頼むぞレベッカ」


「うん……で、アンタそれ大丈夫なの?」


 レベッカが俺の右手に視線を落としながらそんな事を聞いてくる。


「……まあ、察しろ。でもまあ生き残りさえすれば後でどうとでもなる」


「だからと言って実行に移せる当たり、アンタらって凄いというかなんというか……アンタもエルも覚悟の決め方がエグいわ」


「エルがどうしたって?」


「いや、なんでも」


「ならいいや。じゃあお前のタイミングで動く。合図くれ」


 そう言って俺は右手で作ったそれが崩壊しないように神経を注ぐ。

 俺の手の中には、気を抜けば暴発しかねない程に極限にまで圧縮された風の塊が存在している。

 少なくとも地球へと戻る前の俺にはできなかった芸当。

 なにも対策局の人達との特訓で会得したものは身の守り方だけではない。

 それに重点は置かれたがそれが全てではない。



 思い返すのは対策局での記憶。






『おい瀬戸。お前なんか必殺技的な奴何かもってねえのか?』


 特訓の中で誠一の兄貴にそう言われたのが全ての発端だ。


『必殺技……まあ強いて言えばさっき見せたアレがそうっすね』


『あーまあ確かにそれっぽくはあるな』


 このやり取りの直前に行った誠一の兄貴との模擬戦。結果としてはほぼ手も足もでずにボコボコにやられた訳だが、それでも一矢報いる様な状況が一度だけあった。

 そこで俺は右手に風の塊を作りだし、そのまま掌底を叩き込んだ訳だ。

 それも辛うじて誠一の兄貴の刀で防がれた訳だが。


『でもアレを必殺技とか呼ぶには威力が低すぎるだろ。実際俺は剣で防いでノーダメージ。弾き飛ばされただけだ。やるなら刀圧し折るとか、まあ防御されてもそんなもんお構いなしでダメージ与えられる様な威力がねえと』


『いや、簡単に言いますけど無理っすよそれ。なんならエルを大剣にして斬撃打っても防ぐ奴は防ぐだろうし』


『ま、そうかもな。でも威力は高いに越した事はねえ。お前が何喰らってもそうそう死なねえのと同じ様に、そもそもまともに喰らっても攻撃が通らねえ奴がいてもおかしくねえんだからよ』


 それに、と誠一の兄貴は言った。


『何が何でも一撃で倒さなければならない時だってあるかもしれない』


『……』


『だとすりゃ派手な技の一つや二つ位は身に着けておくに越した事はねえんだよ。お前もそう思うだろ、誠一』


『……』


『あ、わりいお前そういうの何もなかったっけ? 悪かった拗ねんなよ』


『拗ねてねえよ! 俺にもあるわ決め技位!』


『ほー言ってみ?』


『……み、右ストレート』


『……お前それ、本気で言ってんのか?』


『……』


『ま、お前は決めに行くタイプじゃねえか』


 だが、と誠一の兄貴は言う。


『お前は何かあった時に決めに行かねえとならねえタイプの人間だ。今のお前がこの先エル無しで誰かと戦わなければならない状況に実際なっちまったら、嫌でもそうなるんだ』


『……はい』


『とにかく今日、お前の課題が一つ見えた。マシにはなってきたがまだまだな防御方面をどうにかしていくのは勿論だが、その合間合間でいい。お前には何か高威力の必殺技を身に着けてもらう』


『でもざっくりそんな事言われても……何かあるっすかね? 俺まともな威力出せる精霊術なんてそれこそ肉体強化と風を操る事位なんすよ?』


『それなら決まりだ。お前の必殺技っぽい何かを必殺技にまで格上げさせりゃいいんだ』


『格上げ?』


『別にお前がやたら要所要所で多用する風の塊を作る奴、別に風の塊を作る精霊術じゃねえんだろ?』


『は、はい。風を操ってああいいう風にしてるだけです』


『じゃあもっと圧縮してみろよ。そうすりゃ必然的に威力上がんだろ。それに風操って作ってるだけなら、お前の出力が低くても関係ねえだろ。別に風に質があるわけでもあるまいし』


『確かに……とにかくやってみます』




 そんなやり取りの中で辿り着いた力。

 より風を圧縮し、それを維持する。その特訓により会得した力。

 今この状況を打開する為の突破口。


「じゃあカウントダウンするわ。0で相手に突っ込んで。ウチも援護する」


「了解」


 軽く深呼吸をして右手の風の塊を維持しつつ、右足元に通常の風の塊を作りだす。

 そして。


「……3、2、1、0!」


 カウントダウンが終わると同時に踏み抜いた。

 そして突然の襲撃に何が起きたのか分からないという様な表情を浮かべるロングソードを持つ男の前へと躍り出る。

 そしてその瞬間にはもう既に、レベッカのサポートが発動していた。


 重力変動。


 目の前の男は反射的に俺を切り伏せようと動こうとするが、それでも突然の奇襲で遅れた反応と、突然自身に掛かった謎の重力により動きは鈍い。


 だとすればこの手は届く。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 確かに俺は弱い。


 風の塊を踏み抜いて突っ込む戦術は、実力者には予備動作で見切られる。

 この極限まで風を圧縮するのも、作りだすまでに時間が掛かる。利き腕でしか使えない。デリケートな為手元から離れれば暴発するので掌底としてしか使えない。

 そして一発撃てば反動で脱臼する上に右腕が粉砕骨折するというおまけ付き。


 それに……これだけやってようやく、その威力はエルを刀にして放つ斬撃と同程度。ノーリスクで打てるあの力と同じで、大剣の時の斬撃には遥かに弱い。


 そんな、欠陥だらけのちっぽけな力。


 ……それでも。事前に準備した上の不意討ちならば当てられる。

 直撃させれば、お前程度を倒せる力はある!

 俺程度のザコが右腕一本でお前を倒せれば安すぎる代償だ!



 そして俺の右手は男の鳩尾に触れ、そして。


「喰らいやがれえええええええええええええッ!」


 炸裂する。

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